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渦巻く滄海 紅き空 【上】
五十一 足止め
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戦場と化した試験会場。

その空間内では、試合などとは比べものにならぬ真剣勝負が彼方此方で繰り広げられていた。一瞬の隙が命を落とす。正に生きるか死ぬかの命のやり取り。
そんな中、緊張した面持ちで武器を構えていた彼は気遣わしげに屋根を仰いだ。

視界に入る結界の紫。更にその奥にいるであろう己の父の姿を探す。眼を凝らして櫓を睨んでいた猿飛アスマは、視線をそのままに、背後から襲ってきた敵の忍びを殴り飛ばした。その際、眼の端に映った壁穴に反応する。

壁穴を抜け、うちはサスケを追い駆けて行った三人の下忍。父である三代目火影――猿飛ヒルゼンの無事を祈ると共に、己の教え子であるシカマルを始めナルとサクラの安否がアスマは気掛かりだった。

いくらカカシの忍犬がついているとは言え、戦闘向けではない犬一匹では心許無い。だが後を追おうとするアスマの動きを読んでいたのか、音忍達が次から次へと襲い掛かって来るのだ。
足止め役なのだろう。特に木ノ葉の暗部に扮している男の采配は見事なもので、上忍達は皆、音と砂の包囲網から脱け出せずにいた。

(チッ…悪いな、シカマル。こりゃ応援に行けそうもないぜ)
心中教え子に詫びを入れて、アスマは再び拳を振り上げた。
里を守る為上で闘う父同様、下で奮闘するのは己の役目だというように。













里に反して森は妙な静けさに覆われていた。その静寂は普段には無い緊張に満ちている。
木々のさざめきに心を慰められるはずもなく、むしろ急かされるように二人の少女は駆けていた。先導するパックンがくんと鼻を動かし、「追手がどんどん近づいて来てる」と益々ペースを上げる。増す速度に焦ったサクラは、シカマルが逃げたのでは、と疑いを抱き始めた。

「まさか…シカマル、」
「大丈夫だってばよ」

遮る。サクラが次に言う言葉を前以て知っていたかのように、ナルが告げた。一人と一匹の怪訝な視線を浴びながら、前方を真っ直ぐに見据える。

「シカマルは一端口にした事は必ず守る。それは絶対だってばよ!!」

きっぱりと言い放つ。サクラの言葉を一蹴し、ナルは枝を蹴った。シカマルを信じ切っている彼女の瞳は、木々の合間から覗く空と同じく澄み切っていた。






枝々が織り成す天蓋の上方には鮮やかな青が広がっている。樹の根元にて座り込んでいた彼は小さく息をついた。
「はぁ…。なんとか上手く逃げ切ったぜ…」

天を仰ぐ。耳朶に届く、次第に大きくなる複数の足音。傍らの小枝を手にして彼は身を起こした。澄み切った空の青に苦笑する。
「なぁんて、逃げ腰ナンバーワンのはずだったんだけどなあ…」

足跡を辿って来た音忍達の視線が一箇所に集まる。目に留まった地面の凹みは疎らで、疲労が増してきた
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