第四十五話
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ディアドラさんの暮らしている住まいは、俺がトラキア城であてがわれていたそれに近いくらいのものであり、その手入れは行き届いていた。
乾燥させた香草などが目立たないよう配されており、その柔らかな香りに心も癒されるほどで、使い込まれた家具や調度品はよく磨かれており、落ち着きのある部屋の雰囲気作りに一役買っていた。
「もてなすなんて言いましたけれど、何一つ準備が出来ていなくてごめんなさい」
「とんでもない、何か手伝えることありましたらご遠慮なく申しつけください」
彼女は炊事場とおぼしき場所へ向かい、水桶から水をやかんのようなものに汲みいれ、釜戸に火をつけようとしていたところ、クルト王子は懐から書物を取り出し、父に任せなさい、なんて言うと炎の呪文を調整して発動し、すぐに火を起こした。
マジイケメンすぐる!
湧いたお湯で彼女は手製の茶のようなものを淹れてくれ、俺が先程みやげに渡した菓子と共に少しゆったりと時間を過ごした。
「お父様、ミュアハさんには夕飯くらいはお召し上がりいただきたいのですが……」
「そうだね、そうするといい」
クルト王子は心底やさしげな表情でそう述べた。
手持無沙汰な俺は彼女から許可を受けて、辺りの廃屋に目立つ雑草を抜いたり、井戸があったのでそこから水を汲んだりしながら時間を潰した。
変に気取ったところも無く、穏やかでやさしげな態度の彼女に惹かれるものはあるだけに、気に入られたいという気持ちがあってこんな行動をしていたのかもしれない。
今日贈った楓糖で少し甘みをつけた麦粥に、香草や根菜で作ったスープや煮豆などの質素ながらも温かみのある夕食を御馳走になった。
こんな夜にいきなり戻るのも俺が困るだろうから、今晩はこの集落で過ごし、明日の朝一番で送ってはどうかとディアドラさんが申し出てくれた。
娘に弱いのだろう、彼女の願いを聞き届けたクルト王子と三人で歓談を続けていたが……
「……ミュアハ王子、今日はありがとう。 本当はもっと早くこうすべきだったのだが、すまない、ずっと休んでくれたまえ。眠れ!」
突然、クルト王子は携えた杖を俺に向けて魔力の奔流を俺にぶつけた……
突然のことに俺はめまいを起こしてしまった……
ディアドラさんの驚く声が俺の耳に届いてきた。
眠りに落ちることは無かったが様子を見る為に机につっぷし、寝たふりをすることにした……
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