五 狐の道化 後編
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あまりに過酷な子どもの生きざまに、目を逸らしたかった。
今更だが、人のプライバシーに踏み込んでしまったことで罪悪感が募る。しかし、それよりもまずこの里の実態に嫌悪した。嫌悪感を抱く横島に構わず、再現フィルムの記憶は流れていく。
そうして幾分か季節が廻り、再びまんまる月が闇を彩る夜。
執務室で独り、何かを思案しながら三代目火影は書類を眺めていた。暫くして一息ついた彼は、静かに筆を机上に擱く。
そのまま椅子に深く腰掛け、唐突に口を開いた。
「月代よ、長期任務を言い渡す」
何の脈絡もなく部屋に響いたその言葉に、人の気配が薄くだが露わになる。
黒が基調の暗部服を身に纏い、狐を模した白い面を腰に携えた、金髪の美青年が突如現れた。
中性的だが端麗な容姿のその青年に、横島は思わず(…美形は嫌いじゃ―っ)と悪態をつく。
しかし次の瞬間、火影と青年のやり取りに目を見張った。
「わしの前では本当の姿を見せてくれんか?」
「…別に、俺自身を成長させただけだけど」
「それでもじゃ」
軽く溜息をついた青年は気だるげに、白く繊細な手で何かの印を結んだ。
ぽんっと軽い破裂音と共に、煙が立ち込める。煙が晴れた時には青年の姿はなく、かわりに横島が路地裏で出遇った子どもが出現した。
(………玉藻の変化、みたいなもんか…)
しばし唖然としていたがそう結論づけて、横島は子どもを見つめる。
以前会った時と、子どもを纏う雰囲気が全く違っている。遭遇したのはたった一度だが、横島にとってはそれで十分だった。
あの時の子どもを太陽と例えるならば、今火影の前にいるのは真逆の月のようである。
「…任務内容は、アカデミーの入学じゃ」
「…誰の?」
どこか達観した瞳で執務室の窓から外を覘く子どもは、火影の方を向かずに口を開いた。
「…………お主のじゃよ」
「断る」
火影の言葉に、一瞬子どもの瞳に不安の色が翳った。しかしそれは本当に一瞬のことで、すぐさま冷静な表情に戻る。
一蹴した子どもに火影は内心冷や汗を掻き、その感情を見逃してしまった。しかし横島は、子どもの些細な感情に敏感にも気づいていた。
子どもの言葉が聞こえなかったふりをして、火影は更に言い募る。
「アカデミーに入学。そして忍者を目指す…その裏でアカデミー生の護衛。それが任務内容じゃ」
「……つまり護衛対象のいる環境に紛れ込め、という事か」
「察しが良いのぅ…わしとしては任務を抜きにして学生生活を楽しんでもらいたいのだが…」
「……ッ」
押し黙り、口を結んでしまった子どもからの返事を、火影は辛抱強く待った。
忍者を養成する学校―アカデミーと呼ばれる建物は教師や生徒は勿論、多くの忍が出入りする場所である。里の中枢にあたり、
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