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同士との邂逅
五 狐の道化 後編
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ぽっかり浮かぶ夜。
子どもは月下のもと、踊る。
お祭り帰りのような狐のお面を被って、くるりくるりと体を翻し。
スパリスパリと、幾人もの丸太を斬る。
綺麗な切り口を残すソレらを、天高く舞い上がった炎が焼失する。

月の出ない夜には、子どもの珍しい金の髪が月色に輝く。
月の影が落ちたと思った者が空を見上げた頃には、ぐらりと頭が傾いて。
ごとり、と落ちる。
一つから二つに増えた影を踏み越えて、小さな月は駆ける。
けおされて見る影もないことを[月の前の灯]というが、消えるのは命の灯。

血飛沫を浴びるは、狐の道化。
闇を彩るは、曇らぬ月。

道化の化は、姿をかえる。月と見間違えば、生が終わる。
――――闇に浮かぶ月は、味方ではない。


これらから、冷たい月の代理人―【月代(つきしろ)】と、いつしか呼ばれていた。
偽りの名。
悪妙高い本当の名より、その名は慕われ、崇められ、敬服される。
太陽の下、悪妙高い嫌われ者は、ドベな悪戯小僧と認識される。
月下にて、少しばかり成長させた体へと姿を変えれば、その認識は一転される。

偽りの容姿。
悪意しか向けられない本当の姿より、情愛され、偏愛され、敬愛される。
自然に子どもは、狐面の下にも面を被るようになった。
道化の表情の下には、能面。
強固な拒絶を指すその厚い仮面は、破れない剥れない罅も入らない。
名を偽り、姿を偽り、己自身も偽って。
子どもは生きた。



月を思わせる鮮やかな金髪の子ども。彼には、多くの異名がある。

昼は、里の嫌われ者・狐のガキ・化け狐・ドベ・馬鹿・悪戯小僧・意外性ナンバーワンのドタバタ忍者…。
夜は、月代・任務達成率100%の死神・禁忌とされた狐面を唯一許された者・里最強の火影を遙かに凌駕する幻の存在・ビンゴブックにすら載らぬ伝説の暗部…――。


狐という共通点があるにしろ、完璧なまでの演技力と天と地の差である両者の実力は、周囲の者の感覚を麻痺させる。
なんせ片や、笑みを絶やさない太陽のような子。何をしても上手くない、不器用で愚鈍で底無しに明るい生意気な悪戯小僧。
片や、表情に乏しく冷たい月のような狐面者。類稀なる才覚と八面玲瓏な容姿を併せ持つ噂だが、素顔を見た者は火影以外では存在しない、最強にして最凶。
同一人物だと、誰も気づかない、気づかせない。

嫌われて偽って憎まれて偽って暴力を振るわれて偽って人々を守って偽って毒を盛られて偽って里を護って偽って殺されかけて偽って、
偽って偽って偽って………―――――――――繰り返される日々を子どもは生きた。
世界に存在を認められずとも正しく忍びの性たる堅忍の精神で、ずっと耐え忍んで生きて、きた。




映像を見ながら、横島はぐびりと喉を詰まらせる。
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