四 狐の道化 前編
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上り詰めるまでの波乱万丈な人生であった。
老人自身の視点から見た映像は、まるで映画のように流れていく。
子どもから青年に、大人から老人に。
稀に女風呂を覗くといったスケベな男の性に、共感を抱いたりしたが。
成長する過程を乗り越え、火影になった彼の人生は「忍び世界の厳しさ」を横島へ教えていた。
……果たしてどれほど経っただろうか…―――。
火影が代替わりしたその頃であった。
老人が金髪の男性と話している。その金髪の男性は、どことなく狐面の子どもや路地裏で虐待されていた子どもに似ていた。
――――場面が変わった。
なにか核爆弾でも落ちたかのようなクレーターが、山のあちこちに出来ていた。
壊滅寸前の里で逃げ惑う人々。彼らを避難させる、忍び装束と思われる服を身に纏った者達。
戦争かと横島が思った矢先に、獣の咆哮のような音が耳に響いた。
声の方向を見遣れば、途轍もない大きなモノが暴れている。
闇の中、大きな九つの尾がゆらゆら揺れているのが見てとれた。
そのまま尻尾で傍の森林を薙ぎ倒しているモノの正体に、横島は目を見開いた。
全身の毛を逆立て、冷たい眼光を向ける血走った瞳。先鋭な牙を剥き出しに唸り、俊敏に動く巨大な姿。
尾一つで崩れる山地。咆哮一つで削られる大地。
九尾の狐。
ふと、己の知り合いの九尾を思い出した。脳裏に浮かぶのは、同じく九尾である玉藻という少女。
けれども彼女とは似ても似つかぬ巨大な化け物に、横島は唖然とした。
そうこうする間にも、映像は流れる。
よく怪物映画であるように、九尾の目前にて立ち塞がった者が戦闘を始めた。
白き衣を翻し、熾烈な闘いを繰り広げるのは、先ほど見た金髪の男性。
彼は途方も無い体の大きさと力の差にもめげず、精一杯闘っていた。
その背中は、男である横島から見ても眩しかった。
しかし、差はやはり大きかった。片や人間、片や大妖。
徐々に圧され始める金髪の男性に対し、妖獣である九尾は疲労の色も窺えない。
そんな折、紅い髪の女性が身体を引き摺りながら現れた。息も絶え絶えの様子の女性は男性と同様九尾と対峙する。
九尾にとっては蟻の如き人間。それでも彼らは大妖に引けを取らず、何かを守りながら闘っていた。
それは、膨らみのある小さな包み。包みを背に、里を背に、二人の男女は闘い続け…―――――。
ぐさり、と何かが貫通する音がした。
牙と同じく研ぎ澄まされた爪が、男性と女性の腹を突き破っている。
……――――誰かが、泣く声がした。同時に、啼く声も。
二人の様を見守っていた者達は、改めて九尾に戦慄を覚える。やはり人が人ならざるモノに勝てるはずがないのだ
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