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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九十六話  攻防
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とてもそうは思えんが。
「現状でも一杯一杯だ。この上国債など発行してみろ、償還のためにさらなる増税が必要になる。同盟市民から怨嗟の声が上がるだろう。今でさえ市民には重い負担を強いているんだ。帝国よりも先に同盟で革命が起きるだろうよ! 我々は全員断頭台行きだ!」

つっけんどんに言い放つとバラースはバツが悪そうな表情を浮かべた。他の連中も似た様な表情だ。馬鹿どもが、金がないという現実を思い知れ。
「聞いての通りだ、出兵には軍事的、政治的、そして経済的に大きな危険が伴う。帝国も同盟も滅茶苦茶になるだろう、それでもやるかね」
「……」

トリューニヒトの発言に皆が顔を見合わせた。だが誰も発言しようとしない、サンフォード議長は表情を消している。また日和見か、だがそれが何時までも許されると思うな。
「皆、意見が無い様だ。ではサンフォード議長の御判断を仰ぎたい」
「私の?」

トリューニヒトがサンフォード議長に話を振ると議長は露骨に嫌な顔をした。
「サンフォード議長の御判断を仰ぐまでも無い、イゼルローン要塞攻略など論外だ!」
「明確に反対しているのは私と君だけだ。だから議長に国政の最高責任者として決断してもらおうと言っている」

トリューニヒトと私が睨みあった。一、二、三……。会議室の空気が緊張する。トリューニヒトがサンフォード議長に視線を向けた、私も議長に視線を向け彼を睨む。議長が憐れなほどに狼狽した。周囲に助けを求めるかのように視線を投げたが誰も答えようとはしない。さりげなく視線を外している。それを見て更に狼狽が酷くなった、しきりに汗を拭っている。

「二人とも落ち着いてはどうだね」
ホアンが声を発すると会議室にホッとしたような空気が流れた。議長も救われた様にホアンを見ている。正義の味方、参上だな。
「改革はまだ始まってもいないのだ、今決断する事は無いだろう」

「決断を先送りするというのかね、正しい選択とは思えないが」
私がホアンを咎めると彼は肩を竦めてみせた。内心では面白がっているだろう。
「先送りするわけじゃない、私もイゼルローン要塞攻略には反対だ。だが先ずは地球教への対応を優先するべきではないかね。あれを片付けるまでは帝国と事を構えるべきではないと思うんだ」
「……」
「優先順位は地球教対策の方が高いと言っている」

「ホアン委員長の言う通りだ。今は地球教対策を優先するべきだろう、帝国にどう対応するかはその後で良い、そのころには帝国の改革もどのようなものかはっきりするだろう、判断するのはそれからにしよう」
先送りその物だったがサンフォード議長の言葉に誰も反対はしなかった。

とりあえずこれで主戦派を押さえる事が出来るだろう。サンフォード議長の言質を取ったのだ。日和見で多数に乗る事が得意な議長は自分一
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