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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九十六話 攻防
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あの男、そう考えるとあの男が和平派を動かしているというのは十分にあり得る。だとすると全てはあの男の……。
不意に凍えるほどの恐怖感に身体が包まれた。
「あの男が怖いか?」
「……」
驚いて夫に視線を向けると夫はじっと私を見ていた。労わるような、哀しむような切ない視線だ。
「今、震えていたな」
「……ええ、怖いと思いました。申し訳ありません、私は皇帝で怯えることなど許されない立場なのに」
夫が首を横に振った。
「お前を責めはせぬ、わしも怖いと思うのだ。我らだけではあるまい、敵も味方も皆あの男を恐れているだろう。まるであの男が怪物でもあるかのように……」
敵も味方も……、ヴァレンシュタインは辛くは無いのだろうか。私は夫が支えてくれていても辛いと思う。
「……ヴァレンシュタインは辛くはないのでしょうか?」
「辛かろうな、だがそれでもあの男は戦っている」
「……」
夫が一つ溜息を吐いた。深く、そして大きく……、そしてまた一口コーヒーを飲んだ。
「あの男は全てを帝国に奪われた。家族を、家を、名誉を……。多分、自分のような人間をこれ以上生み出さぬために戦っているのではないかな。自分のために戦うのではない、だから強い、だから哀れでもある……。罪深い事だ、我らの愚かさがあの男を怪物にしてしまった……」
「……」
夫の視線が何故哀しそうな色を湛えているのか、ようやく分かった。夫はヴァレンシュタインを哀れんでいる、そして自分を責めている……。夫が何かを振り払うかのように首を横に振った、
「あの男が和平派に繋がっているとなれば同盟の和平派は決して弱い存在ではない」
「はい」
「我らが改革を行えば和平への流れはより強まる……」
「明日ですね」
「そうだ、明日だ」
夫と私、互いの顔を見ている。どちらの視線が強いだろう……。
「レムシャイド伯には同盟側の感触を探れと命じてある。我らの動きに同盟にいる和平派はどう応えるか、主戦派はどう反応するか、見極めなければならん……」
「それと貴族達がどう反応するか……」
私の言葉に夫が頷いた。
「アマーリエ、場合によってはエリザベートを道具として使うことになるかもしれん。だがそうでなければ帝国も我らもエリザベートも生き残れぬ」
「分かっております。エリザベートもその事は分かっております」
「そうか……、辛い思いをさせるな」
夫が大きく息を吐いた。
おそらく貴族達は強硬に反対するだろう、私達の命にも危険が迫るかもしれない。しかし私達には怯える事も立ち止まる事も許されない。帝国を護り私達自身が生き残るためには今歩んでいる道を進まなければならないのだ……。夫にとって娘を道具として使う事は辛い事だろう。だがエリザベートは覚悟をしている、私達は前へ進むのだ、生き残
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