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全て君だった。
第一話「ハジマリ」

[2]次話
「お前さ、もうすぐはたちだろ?だったらさ、もっと愛想よくしろよ。

 もう子供じゃないんだからさぁ。自覚しろって。」

 アルバイト先の先パイにそういわれた。分かっている。
今のままではだめなことぐらい。月本はバイトの帰り道、そのことを考え続けていた。
 たしかに、自分がいけないのだと思う。このままでいたら誰からも愛されることはない。
けれど、自分のことを何も知らない人間に言われたくなかった。
 濃く黒いけむりが彼のことを包み込むかのように、彼は深く終わりのない
考えに落ちていく。
 自分のことを知っている人間などおそらくいない。
一人で生きていける、そう思いもしたが、月明かりさえも自分のことをあざ笑っている
ように見えて、彼はひどく落胆した。
月本は誰からも愛されたことが無い。

「どうも、こんばんは。今日はいい夜ですね。」
 
そう言って笑いかけてくる誰か。

「えっ?」

 月本はあまりにもいきなり話しかけられたので動揺した。
誰でもいきなり話しかけられたら動揺するだろう。というか、想定外の状況に軽く
パニックになっていた。
 そのようなことはどうでもいいだろう、というような目つきで彼は自分に話しかける。
今日は最悪な日だ、と思う。小さなため息がもれる。

「あの、僕、緋山 御影(ひやま みかげ)と言います。
 あなたが悲しい顔をしているので、つい声をかけてしまいました。」

 緋山が一方的に話し続ける中、月本には、何を言っているかなど頭には無かった。
無論、動揺やパニックなどはとっくに消えていた。
悲しい顔。その一言が頭をハンマーでたたかれたかのように月本を傷つけた。
今、一番言ってほしくない言葉だった。
同情されるのが辛いときは誰だってある。今、月本を一番苦しめるのは同情だ。
 頭の中で先パイと緋山に言われた言葉が繰り返され、気分が悪くなった。
そうして、月本は緋山から逃げるようにその場を去った。
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