第一章
[1/2]
[1]次 最後 [2]次話
猫の事務室
奈良県のある駅でのお話です。この駅にいるのは駅長さんと若い駅員さんと新人の駅員さんの三人だけです。
停まる電車は少なくお客さんはもっと少ないです、線路は二本、ホームは二つです。
新人の駅員さんはプラットホームを箒で掃きながら駅長さんに言いました。
「暇ですね」
「うん、暇だね」
駅長さんもこう返します。
「本当に」
「次の電車何時ですか?」
「四十分後、いや五十分後だよ」
一時間近く先だというのです。
「まだ時間があるよ」
「そうですか」
「まあいいじゃないか?」
駅長さんはのどかな顔で晴れ渡った青空を見上げながら新人さんに言いました。
「平和で」
「そうですね。ただ暇で」
「じゃあ掃除が終わったら駅の中に入って休むかい?」
「そうですね。じゃあそうさせてもらいます」
「掃除をしてそしてね」
後することはといえば。
「時々停まる電車を見るだけだよ」
「それだけですね」
「そう、それだけだよ」
これがこの駅でのお仕事です。
「楽だけれどね」
「暇ですね」
「まあね。けれど仕事があるだけましだよ」
「そういうことですね」
二人でこんなことをお話していました。駅では三人でのどかですが退屈な日々を過ごしていました。新人さんはお金があってもこのことを残念に思っていました。
そんなある日のことです。駅のプラットホームに。
一匹の猫がいました。白地で背中や顔の半分が薄茶色になっている猫です、その首には首輪がありません。
新人さんはその猫を見てすぐに猫に言いました。
「御前何処から来たんだい?」
「にゃあ」
猫は尋ねられてもこう返すだけでした。
そして新人さんから顔を離して右の後ろ足で顔をかきます。とても猫らしい動きを新人さんの前で見せるのでした。
そのうえでプラットホームの上にごろりと寝ます、その猫を見てです。
新人さんは駅の事務室にいる若い駅員さんにこう言うのでした。
「猫がいるんですけれど」
「プラットホームにかい?」
「はい、いますけれど」
「ふうん、また面白いことだね」
若い駅員さんは首を捻って言います。
「駅に来るなんて」
「面白いですか」
「実は僕猫好きなんだよ」
だからだというのです。
「それでその猫は今どうしてるのかな」
「プラットホームで寝てます」
新人さんは若い駅員さんに答えます。
「そうしています」
「そうなんだ」
「どうします、ここは」
「ちょっと行って来るよ」
若い駅員さんはにこにことして新人さんに答えました。
「その猫を見にね」
「追っ払ったりしないんですね」
「猫は追っ払っても来るよ」
そうしたものだというのです。
「何度そ
[1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ