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スペードの女王
第三幕その四
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声は何処か憔悴したものになっていた。
「僕は何処もね」
「いや、やっぱりな」
「ああ」
 友人達は口々に言う。
「どうしたんだい?本当に」
「何も憑いてはいないよな」
「何もないさ。じゃあまた賭けよう」
 ゲルマンは言った。
「次は三だ」
「三だな?」
「ああ」
「わかった、三だ」
 カードが配られる。ゲルマンが引いたのは三であった。
「よし」
 彼はそのカードを見て不敵に笑う。まるで地獄の堕天使の様に。
「また僕の勝ちだ」
「ゲルマン」
 最も親しい友人であるトムスキーが彼に声をかけてきた。
「これで止めておけ」
「どうしてだい?」
「何かおかしい。これ以上やると恐ろしいことになる」
「そんなことはない」
 だがゲルマンはそれを否定する。
「もう一枚で全てが終わるんだ」
「もう一枚?」
「そうだ、それだけなんだ、後は」 
 虚ろな目が次第に充血していく。すぐに死霊の目の様に真っ赤になった。蒼白の顔に浮かび上がるその紅の目はまさに死の目であった。
「それで全てが」
「だからもう」
「トムスキー」
 さらに言おうとする彼をチェカリンスキーとスーリンが止めた。
「もう駄目だ」
「駄目とは」
「彼は憑かれている」
 チェカリンスキーはゲルマンの姿を見て彼に言った。
「救われない。このまま側にいては駄目だ」
「そんな・・・・・・」
「恐ろしいことが起こる。僕達はそれを見守るしかできない」
 スーリンの顔は何時になく強張っていた。
「このまま」
「ゲルマン・・・・・・」
「さあ、次だ」
 ゲルマンは言う。
「次に僕とカードをするのは誰だい?」
「では私が」
 公爵が前に出て来た。
「貴方が」
「宜しいかな、ゲルマン君」
 ゲルマンを見て言う。彼の為に婚約が破棄されたことは知っている。だがその怒りは今は表には出さない。じっと見据えているだけである。
「それで」
「はい」
 ゲルマンはそれを受けた。

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