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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 前編
偽善の持つ優しさ
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。振り返ると、トウマはいつもの爽やかな笑みを浮かべ、拳をこちらに差し出している。

「おやすみ。また明日」
「……ああ」

 一瞬の逡巡の後、マサキも右手で作った拳をぶつけようと持ち上げる。
 だが。あとたった数センチで拳が触れ合うというところで、マサキの動きがピタリと止まった。全身全霊の力を込めて右手を前に突き出そうとするが、まるで二人の間に透明な壁があるかのように、彼我距離は一向に縮まらない。それどころか、先ほどから胸に居座っている息苦しさが、さらに活発に活動を始めた。それは肺でも心臓でもない、胸のもっと奥深くをチクチクと刺し、キリキリと締め上げる。

「……済まない」

 マサキは一言だけ残すと、さっと身を翻し、自室へとなだれ込んだ。そのまま部屋を横断し、備え付けられた窓を開け放つ。
 途端に外から流入してくる冷気に、いつになく困惑し、疲れ果てたマサキの呟きが響いた。

「……何だってんだ、一体……」

 しゃがれた声と共に零れ出た息は、冬の外気に晒されて白く染まり、街頭に照らされることによってキラキラと煌いて――。
 そして、星なき夜の闇に染まった空へと、溶け込んでいった。

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