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スペードの女王
第二幕その二
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第二幕その二

「はい、宜しいでしょうか」
「わかりました。マドモアゼル」
 リーザに顔を向けて言う。
「申し訳ありませんが暫し」
「はい」
 リーザもそれを受け入れた。
「どうぞ。お待ちしておりますので」
「申し訳ありません。ではこれで一先」
「ええ」
 公爵は一礼してからリーザの下を離れた。こうして乙女はまた一人になったのであった。
 ゲルマンはトムスキーと共に宴に来ていた。二人はフランス軍の軍服の上に青いマントを羽織っていた。そしてトムスキーは白の、ゲルマンは赤の仮面を被っていた。何故かその赤が退廃的で危険な香りを醸し出していた。
「最近何か元気だったりするね」
「そうかな」
 ゲルマンは友に応えた。
「かと思ったら沈んだり。どうしたんだい?」
「嬉しさと不安が交互に僕を責め苛むんだ」
 ゲルマンは仮面の下にその深刻なものを押し殺して呟いた。
「いつもね」
「そうなのか」
「ああ。楽しくなったり辛くなったり」
 声にありありと深刻なものが浮き出ていた。
「それでね。どうにも」
「じゃあここで気分を入れ替えればいい」
 トムスキーは友にそう言った。
「そうすれば気持ちも変わるだろう」
「ああ、そう思うよ」
 ゲルマンは仮面の下で何かを見ながら答えた。
「けれど」
「まあ深刻な考えは忘れるのだ」
 彼はもう一度述べた。
「いいな。酒でも飲んで」
「わかったよ。じゃあ」
 勧められるまま酒を受け取る。そして飲もうとする。その時だった。
 チェカリンスキーとスーリンが来た。まるで悪魔の様に。
「カードだよな、やっぱり」
「そうだな」
「カード」
 ゲルマンはその言葉にビクリとした。
「それで金を手に入れ」
「果てには名誉も手に入れる」
「金・・・・・・そうだ、それで地位と名誉を手に入れ」
 ゲルマンは考える。
「僕は彼女を」
「皆さん」
 ここでこの屋敷の儀典長が部屋の中央に出て来た。
「只今より牧歌劇を執り行います」
「おお」
「いよいよか」
「羊飼いの男女のお話、お楽しみ下さい」
「じゃあ」
「間を開けよう」
「またフランスの劇かな」
「多分そうですわ」
 演劇もやはりフランスのものであった。何処までもフランス風なのであった。
 衣装はギリシア風であった。牧童達の服である。若い男女の俳優が出て来た。輪舞を踊り、待っている。
「ねえ君」
 その中の若い男がただ一人歌わない女の子に声をかけた。
「どうして歌わないの?君の名前は?」
「私はプリレーパというの」
 フランス語でやり取りが行われる。娘は答えた。
「貴方の名前は?」
「僕はダプニス」
 彼も名乗った。
「どうして歌わないの?」
「何か気持ちが塞ぎ込んでしまって」
 
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