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シャンヴリルの黒猫
29話「ユリィの常識講座A “女の子を前に「重い」は禁句です”」
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「……立ち去ったな」

 追撃せず気配だけを追ったアシュレイが言うと、女性陣がほっと息をついた。

「あの、今のは……?」

「そのことなら私が答えるわ」

 遠慮がちに尋ねると、ユーゼリアが前に出た。躊躇うように視線をさまよわせた後、クオリの金色の眸を見つめる。
 ユーゼリアは、とある事情から彼女も追われる身の上であると語った。アシュレイは彼女の護衛であるとも。元王族であることを明かさなかったのは、クオリもまた全てを言っていないからだろう。

「…そう、でしたか……」

「一応弁明しとくけど、私達犯罪者じゃないからね?」

「ふふふ。分かってます。エルフはそういうのに敏感ですから」

 ユーゼリアの小さな冗談に場が和む。その目に僅かな期待の色をのせて、ユーゼリアが再び問いかけた。

「どう? 一緒に旅しない?」

「リアさん……」

「人数が多ければ多いほど、1人あたりの負担は軽くなるわ」

 その言葉に、アシュレイがおや? とユーゼリアに視線をやった。目が合うと得意げな顔でウィンクされる。この言葉は、アシュレイの受け売りだった。

「それに、遠距離攻撃が可能なあなたが入ってくれると、私達も攻撃の幅が広がるし」

 浅葱色の髪のエルフは、じっと何かを考えているようだった。

「何より、せっかく友達になったのに、すぐお別れなんて寂しいじゃない」

(これが本音かな…)

 フッと笑みを零しつつ、ユーゼリアの説得に耳を傾ける。すっかり暮れた夜空には銀色の星が瞬き、月は青白く浮かび上がっていた。

「……友達」

「だめ、だったかな?」

 それでも反応を示さないクオリに、ユーゼリアは肩を落とした。

「もちろん無理は言わないが……」

 そこで初めてアシュレイが口を出した。2人の視線がこちらに向くのを感じながら、だが自身の視線は夜空に向けたまま。

「俺達の心配をしているなら、それは無用だ。確かに俺は先だってFランクに上がったばかりだが、前衛として2人を守るだけの力は持っていると自負している」

「アッシュさん……」

 クオリとて分かっていた。つい先日のことだ、グランドウルフとハウンド相手に1人で完全に“足止め”をしてみせたアシュレイをこの目で見たのは。彼は言われた通り、“足止めを”した。恐らく1人で倒せと言われていたら、できたのだろう。
 クオリはエルフだ。エルフは、魔の力に敏感である。中でもクオリは魔力を視覚的に見ることができる。ゆえにクオリは、あくまでなんとなくではあったが、彼――アシュレイが人でないことを、本能的に感じ取っていた。
 どういう事情か分からないが、そんな彼が旅の連れとなるのだ。1人旅よりも危険性は格段に減る。

 それに正直、ク
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