第二十六話 少年期H
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俺にとってそれはいつも通りのことだった。
自分が行っている行為が決して褒められたことではないのは、頭の中ではわかっていた。だけど、それがわかっていたら何かが変わるのだろうか。それを守れば何か得られるものがあるのだろうか。確かに人としては、誠実と呼ばれるのかもしれない。けど……結局はそれだけだ。
清く正しく生きるなんて、そんなもの恵まれている者が言える言葉だ。正義じゃお腹はふくれない。法を守っていたって新しい服は降ってこない。だから俺は手を汚すことを選んだ。汚いと言われようと、蔑まれようと少なくとも俺はそんな生き方のおかげで生きてこられたのだから。
もう1人で生きていくことにだって慣れてきた。俺に手を差し伸べてくれる人はもういない。他の誰かの手なんて……もっと曖昧で、あっさり消えてしまうようなものに縋るなんてさらに馬鹿だって思う。
気づいたんだ。生きるためには力が必要で、弱かったら何もできない。俺にはその力が足りなかったから、何も持っていないんだって。それなら、誰かから奪ってでも俺は得ることを望んだ。そんな風に、1人で生きられることが強さだと思ったからだ。
……そんな生き方しか俺は知らなかった。そして俺のその生き方は、ずっと変わらないものなのだと思っていた。相手から奪うことへの罪悪感が日に日に無くなっていく意識。世界から徐々にはじき出されていく感覚。自分の名前を耳にすることが無くなっていく日々。
それが俺のいつも通りであり、今日もその繰り返しのはずだった。身軽な服装と護身用にナイフを1本忍ばせながら、都市に溶け込むように混じる。チャリッ、と首元にかけられているペンダントから小さな音が鳴るのが聞こえた。俺は獲物になりそうな奴を観察しながら、慎重に歩を進ませていく。
路地が多くありながら、人ごみに紛れ込めるこの道は便利だった。今日も偶然ぶつかったように振る舞いながら、目をつけていた相手に素早く手を伸ばす。そこから目当てのものを掴んだ瞬間、羽織っていた薄手のコートの中に仕舞い込む。そして逸る足を抑えながら、俺はゆっくりと人波から離れた。
そして事前に調べておいた1本の路地の中に身体を滑り込ませ、足に力を込める。周りに人がいないことを確認し、全速力で細い路地を駆け抜けた。足の速さには自信がある。もしさっきのおっさんに気づかれたとしても、追いつかれないように距離を取る必要があったからだ。しかし今回は、後ろを振り返ってみても人影は1つも見当たらない。それに笑みがこぼれる。
次の路地を曲がったら、今日の成果を確かめよう。俺は笑い出してしまいそうな声を押しとどめながら、身体の向きを角に沿ってひねった。この先の裏道は滅多に人が通らない小さな路地裏。俺みたいなやつしか知らないような抜け道で、誰も
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