第十八章
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ない。証拠の隠滅は、完璧じゃないと」
そう言って、さもおかしそうに含み笑いをした。
「――私は感情を信じない。…感情は、判断力を狂わせるのだよ」
霧に覆われた山中の道。
呪われたランドナーが、ぐんぐん速度を上げていく。今、80キロくらいは出てるんじゃないだろうか。速度計がついてないことが(ていうか2ヶ月前に大破した)悔やまれる。
…霧はだんだん濃くなっていく。正直、目安になるのがガードレールだけなので、視界が3メートル利いているのかどうかも怪しい。こんな時期になんだ、この濃霧は。バックミラーすら役に立たないじゃないか。でも車体の気配は思ったより遠い。奴らも霧を警戒してスピードが出せないのだろう。今日が快晴だったら、とっくの昔に追いつかれているところだ。…しかし、正直それも限界に近いような気がする。ていうかトップギアで漕ぎ続けている、俺の脚が限界だ。
――本当に振り切れるんだろうな、ランドナーよ。
心の中で問いかけてみる。…なに黙ってるんだ、ランドナーよ。お前が振り切れなかったら、俺のFP5アルテグラはおじゃんなんだぞ。
…その瞬間、なぜか、俺の妄想のFP5アルテグラに、大きな×がついた。
え?ちょっとまてランドナーよ。結局アルテグラは手に入らないのか?
…次の瞬間、頭の中に、アラヤの新品ランドナーがもやもやもや〜んと広がった。おっさんツーリストがよく愛用しているオーストリッチのサイドバッグが「逃がさんぞ」と言わんばかりに付着して、余計なお世話にもおっさん仕様のフロントバッグまでセットになっている。ドロップハンドルの薄茶色といい、車体の微妙な赤といい、全体的におっさんが好みそうなカラーリングだ。
…なぁ、ほんと待てお前。コレは一体どういうことだ。「アラヤのランドナーじゃないと、振り切ってあーげない♪」とでも言いたいのか?自分と別れた後、カッコいいロードバイクでブイブイいわす俺がイヤなのか!?な、頼む。平身低頭して頼む。お前に呪われ中、あんなに尽くしたじゃないか。
分かった、FP5アルテグラは諦める。せめて俺を、カッコいいロードバイクの世界にデビューさせてくれ!
…実にしぶしぶといった感じで、アラヤのランドナーが頭から消えた。次に頭を満たしたのは、ジェイミスのSUPER NOVAだった。…いや、ツーリングバイクじゃなくてロードバイクがいいのだが。ジェイミスならせめてXENITH RACEあたりが妥当だな…と言いかけた途端、突然ペダルが重くなった。
わ、分かった、分かったから落ち着けランドナーよ。俺も歩み寄ろう。ジェイミスのツーリングーバイクはクラシカルでいてスタイリッシュで中々…
…って、オーストリッチのサイドバッグとフロントバッグは付くのかよ!…あぁん、銀色の泥除けまで!…あ、やめろ
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