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売られた花嫁
第二幕その四
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た。その顔は本当に真剣なものであった。
「一〇〇グルデン程でしょうか」
「何だ」
 イェニークはそれを聞いて呆れた声を出した。
「それだけの財産がそれだけか。いや、マジェンカを忘れるのにその程度で」
「不ですかな」
「不服ではありませんよ」
 ムッとしたケツァルにそう言葉を返す。
「ただその程度か、と思っただけです。マジェンカを忘れるのにたった一〇〇グルデンとは。いやはや」
「では二〇〇ではどうですかな」
 ケツァルはお金を倍にしてきた。そしてイェニークを見据えた。
「それなら文句はないでしょう」
「単に倍にしただけではありませんか」
 しかしそれに対する彼の声は冷ややかなものであった。
「それで誰かを納得させられるとでも?僕も含めて」
「うぬぬ」
 ケツァルの顔が怒りで赤くなった。
「ではどれだけあればよいのですかな」
「お金の多さではないのですよ」
 イェニークはそう述べた。
「誠意です」
「誠意!?」
「そう、貴方のね。誠意を見せて頂きたいのです。宜しいでしょうか」
「・・・・・・・・・」
 ケツァルはそれを聞いて沈黙してしまった。今まで赤くなっていた顔が急に白くなってしまった。どうやら落ち着きを取り戻したようである。
「わかりました」
 そしてそう答えた。
「私も結婚仲介人です。では誠意を見せましょう」
「その誠意とは」
「三〇〇グルデンです」
 それが誠意であった。
「これではどうでしょうか。貴方にとっても充分な誠意の筈ですが」
「ふむ」
 イェニークはまたしても考えるふりをしてみせた。だがやはりケツァルはそれに気付かない。
「誠意ですね、確かに」
「はい」
 ケツァルはそれを聞いてニヤリと笑った。勝ったと思ったからだ。
「私の誠意、理解して頂けたようですね」
「はい。ですが誓約書に書かれている言葉ですが」
「はい、これですね」
 ケツァルはまたイェニークにその誓約書を見せた。イェニークはそこのある部分を指し示した。
「ここですね」
「ここ」
「そう。ここにクルシナの娘はミーハの息子と結婚するとありますね」
「はい」
「ミーハの息子と。これに間違いはありませんね」
「勿論です」
 ケツァルは胸を張ってそう答えた。張りすぎて帽子がずれ頭の一部分が見えてまぶしい程であった。

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