暁 〜小説投稿サイト〜
私は何処から来て、何処に向かうのでしょうか?
第2話 東の蛇神とギフトゲームをするそうですよ?
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 この呪的な空間で己を保つ事など不可能に近い。美月自身も、時を刻みながらも既に、自らの意志で時を刻んでいるのか、それとも、何者かの意志に因って時を刻んでいるのか判らない状態で有った。
 しかし、

 しゃらん……。

「罪穢れ清め給え、祓い給え」

 涼やかなる金属音に続き、小さく聞こえて来ていた祝詞が、何故か今ははっきりと聞こえて来る。
 この金属音は、ハクの袖に、そして、裾に着けられていた鈴。

「禍も煩いも八重の渦潮に立てる泡沫の如く」

 繊手が導きの印を結び、耳に心地よい響きが妙なる鈴の音と、低く、柔らかく紡がれる祝詞が、水神の呪をゆっくりと凌駕して行く。

 刹那、目の前に立ち上がる異形の姿が、その巨大な白い身体を捩り、苦しげに開かれた口からは、紅き舌の代わりに、苦悶の呻きが漏れ出して来る。

「とう」

 最後の時を刻んだ美月。そして、

「罪、穢れ一切を祓い給え、清め給え。春の日の淡雪の如く」

 ゆっくりと紡がれて行く祝詞に合わせて、周囲を包んでいた水の気が払われ、それに合わせて深く立ち込めていた濃霧が徐々に晴れて行く。

 そう。その瞬間、川は何事も無かったかのように滔々(とうとう)と流れ、
 少し、西に傾いた太陽は、しかし、それでも尚、春の午後に相応しい陽光を地上へと注いで居る。

 そんな、当たり前の世界が戻って来たのだ。

 そして、ギフトゲームの現場と成った水汲み場には、

 最初から変わらぬ様で立ち続けるハクと。
 彼女の正面。水面に波紋すら広げる事もなく立ち尽くす蛇の精と思しき美女。

 そして、ハクの後方で、ハクの代わりに蛇に魅入られ掛かった美月が立ち尽くすだけで有った。


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