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売られた花嫁
第二幕その一
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顔を上げた。
「そう、心だ。御前さんは少なくとも心はいい」
「うん」
「それを使え。そうしたら幸せになれるぞ」
「そううまくいくかなあ」
 それでも不安であった。
「御前さんは鈍臭いからなあ。けれどまあ神様は見ていてくれているからな」
「神様が」
「ああ。少なくとも神様は見捨てやしないさ。御前さんみたいなのは」
「だといいけれど」
「はっきり言っちまうとな、度胸や頭がなくても心さえよければ生きていけるのさ。だから御前さんだって大丈夫だ」
「うん」
「だから安心しな。今回のことだって大丈夫だからな」
「だといいけれど」
「そんなにエスメラダ先生がいいのなら神様がそうしてくれるさ。それを待ってな」
「わかった」
 ヴァシェクは頷いた。
「じゃあ神様にお願いしてみるよ。有り難う」
「ははは、神様にそれは言いな」
 樵は笑って手を振りながら森の中に入って行った。ヴァシェクはそれを見送るとまた座って考えだした。
「神様かあ」
 樵に言われたことをぼんやりと思い出しながら考えていた。
「お願いすると先生と一緒になれるのなら」
 空を見上げながら言う。
「お願いしよう。先生と一緒になれますように」
 空に向かって祈った。純真な祈りであった。
 そんな彼の側に一人の少女がやって来た。彼とは違って利発そうな可愛らしい少女であった。
「あれがヴァシェクね」
 それはマジェンカであった。彼女は物陰からヴァシェクを覗いていた。
「何かあんまり賢そうじゃないわね。悪い人じゃないみたいだけれど」
 一目でヴァシェクを見抜いていた。そして彼の様子を見る。
 祈りを終えたヴァシェクは側に置いてあった弁当の蓋を開けた。そしてパンや果物を食べはじめた。丁度おやつの時間であった。
「うっ」
 マジェンカはそれを見て空腹を覚えた。彼女も育ち盛りなのですぐにお腹が減るのだ。
 だがここは我慢が必要であった。ぐっとこらえてヴァシェクの方へ歩み寄った。
「ねえ」
「何?」
 ヴァシェクに声をかける。すると彼は顔を上げてきた。
「貴方がヴァシェクね」
「うん」
 彼は答えた。
「そういう君は?」
「私のことはいいわ。それよりね」
「うん」
 ここで突っ込むべきだったのであろうがぼんやりとしているヴァシェクはそれをしなかった。それが迂闊だった。
「貴方確かクルシナさんとこの娘さんと結婚するのよね」
「そういうことになってるね」
 ヴァシェクは浮かない顔でそう答えた。
「あまり気が乗らないけれど」
「あら、どうして?」
 マジェンカはそれを聞いてしめた、と思った。
「僕はね、実は好きな人がいるんだ」
「誰かしら」
「それはちょっと」
「誰にも言わないから教えてくれないかしら」
「誰にも言わない?」

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