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男女美醜の反転した世界にて
プロローグ
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していると、徐々に違和感は収まってきた。
 耳鳴りも聞こえなくなってきたところで立ち上がって辺りを確認。
 視界はクリア。幸いなことに僕の犬の糞にも劣るような情けないところを、目撃していた者はいないようだ。
 何気なく打ち付けたところに触れてみる。 

「ん?」

 下手したら切れてるだろうなと思いきや、触ってみた感じコブすらできていないようだ。
 それどころか、痛みまで。
 じくじくとした痛みすらない。跡形もなく消え去っているではないか。
 まるで、先ほど思いきり地面に打ち付けたのが嘘であるかのように、痛みも跡も何も残っていない。
 この分なら、大事はなさそうだけれど。でも頭は怖いからなぁ。某野球漫画のお父さんや、人生ゲーアフターの主人公も、気にしなかったがゆえに大変なことになっていたわけですし。コブができない方が危険とかって聞いたこともあったり。でも、痛みすらないもんな……。

「まあいっか」

 大事になったら大事になったでその時だ。そもそも現状、病院にお世話してもらえるほど、懐に余裕はない。 
 さっきよりも少しだけ足元を気にしながら、僕は帰路に戻ることにした。
 

 ◇


「今日は疲れた。出来れば早く寝たいよ」
 
 帰宅。
 玄関に着いてからの第一声は、『ただいま』ではなく愚痴だった。ただいまを言う相手いないのだ。
 僕ぐらいぼっちが板についていると、まるで近くに見えない誰かがいるのではないかと錯覚してしまうほどに、自然に独り言をつぶやいてしまう。
 誰が錯覚するんだろう。
 疑問に思いながら靴を脱いでいると、電話機のランプが滅しているのに気づく。

「留守電?」

 番号を見ると――、父さんの携帯からだった。
 僕が高校に進学したのとほぼ同時期に、両親は海外へと飛び立った。家事炊事がてんで駄目で、カップラーメンすら五分五分で失敗する(スープのパックが二、三個に分かれている奴は大体失敗するレベルな)父さんの身を案じて、母さんも付いていったのだ。
 それ以来、事務的な要件以外では滅多に電話をかけてくることなんてないのだけど。なにかあったのだろうか。
 仕送りを減らされたりしたら嫌だなぁ、と思いつつ、留守電の再生ボタンをプッシュ。
『――もしもし。そっちは元気でやっているか? 最近連絡がないので、父さんは寂しいぞ。口には出さないが母さんも同じく思っている。声だけでもいっから聴かせてほしい。一人息子がたった一人で日本に居るんだと思うと、心配で心配でしょうがないんだ。電話には忙しくて出られないかもしれないが、留守電でいいから残しておいてくれ。待ってます』 

「……?」

 どういう風の吹き回しなのか?
 こんな電話はこれまでの二年間、一度だってかかってきたことがない。
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