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売られた花嫁
第三幕その八
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ああ」
 マジェンカの言葉に頷く。
「けれど愛はそうはいかない」
「ええ」
「愛は簡単には手に入らない。そしてそれを手に入れられる者は」
「本当に幸せな人なんだ」
 ヴァシェクが言う。その隣にはエスメラダがいる。
「その幸せを手に入れたならば」
「絶対に手放してはならん」
 クルシナとミーハが言う。
「罰が当たるわよ」
 ルドミラとハータも。ハータも息子の結婚が決まりホッとしていた。彼女もまた母親であることには変わりはない。その彼女がイェニークに声をかけてきた。
「イェニーク」
「何」
「ヴァシェクのことだけれどね」
「うん」
「有り難うね。おかげでほっとしたよ」
「弟だからね」
「弟」
「そうさ」
 イェニークはそれに答えた。
「弟の為なら一肌脱ぐさ。それが兄だからね」
「兄なのかい」
「じゃあ僕はヴァシェクの何なんだい?」
「いや」
 ハータは口ごもった。
「それじゃああたしは一体何になるのか。あんたを追い出したあたしは」
「お母さんさ」
 イェニークはにこやかに笑ってそう答えた。
「過去は色々あったけれど。貴女は僕にとってお母さんだよ」
「そう言ってくれるのかい?」
「うん」
 彼はにこやかな顔で頷いた。
「あらためて言わせてもらうよ、母さん」
「・・・・・・・・・」
 ハータはそれを聞いて何も言えなかった。今までの自分のあさましい行動が後悔となって全身を打ち据える。それでもう耐えられない程であった。
 何も言えなかった。ただ涙だけが出る。そこにミーハがやって来た。
「いいんだよ、もう」
 彼は妻に対し優しい声でそう語り掛けた。
「わかったのなら。わかればいいんだ」
「そうなの」
 ハータは泣きながらそれに応えた。
「わかればいいのね」
「ああ」
 ミーハはまた言った。
「イェニーク」
 ミーハはイェニークに対し顔を向けた。
「お帰り」
「只今」
 こうして彼等は親子に戻った。皆それを温かい目で見ていた。
「さて、と」
 ここでケツァルがまた動いた。
「それでは皆さん、早速はじめますか」
「何をですか」
「決まっているではないですか、結婚式です」
 彼はにこやかに笑ってそう答えた。
「二組の若者達の。場所は村の教会で」
「それが終われば酒場で祝杯を」
「そうです。如何ですかな」
「喜んで。では行きますか」
「ええ。それでは」
 村人達も動きはじめた。そしてイェニークとマジェンカ、ヴァシェクとエスメラダを取り囲んだ。
「主役達もおいで」
「はい!」
 彼等もその中に入った。彼等の親達も。こうして一時の騒ぎが終わり祝福の時が来るのであった。

売られた花嫁   完



               2005・6・2
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