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売られた花嫁
第三幕その六
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いた。今はイェニークとマジェンカだけが冷静であった。
「マジェンカ」
 イェニークはマジェンカを見ていた。
「イェニーク」
 マジェンカもイェニークを見ていた。二人は互いを見ていた。
「今やっと言えるね」
「そうね、ずっと気付かなかったわ」
「まさか」
 それを見てケツァルも村人達もようやく気付いた。
「彼は」
「ミーハさんとこの」
「君と一緒になりたい。いいかな」
「ええ、喜んで」
 マジェンカはイェニークを受け入れた。これで決まりであった。
「な、ど、どういうことなんだ」
 ケツァルは憑き物が落ちたように騒ぎはじめた。
「彼がミーハさんの息子だなんて。こんなことがあるものか」
「言いませんでしたっけ」
 ミーハは少し驚いた顔をして彼に問うた。
「いえ」
「あれ、おかしいな」
「私が言わなかったのよ」
 ハータは苦虫を噛み潰した顔でそう言った。
「どうしてだい?」
「この村にいないと思ったから。いなかったでしょ」
「確かに」
 ミーハはそれに頷いた。
「少なくともわしが今知るまではそうだったな」
 どうもヴァシェクは彼に似たようである。見れば表情までそっくりであった。これが遺伝というものであろうか。
「だが一つ問題ができたな」
「何?」
「ヴァシェクのことだよ。イェニークがマジェンカさんと結婚してしまった。ヴァシェクには相手がいなくなった」
「ヴァシェク、御前はそれでいいのかい?」
「よくはないよ」
 彼は母にそう答えた。何故か落ち着いていた。
「僕はマジェンカさんと結婚する予定だったみたいだから。けれどね」
「けれど。何だい?」
「ヴァシェクの相手はちゃんといるからな」
「うん、兄さん」
 彼は今ここではじめて彼を兄と呼んだ。
「また兄さんの力を借りたいけれどいいかな」
「ああ」
 兄は弟に対して快く頷いた。そしてケツァルに顔を向けた。

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