第三幕その四
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第三幕その四
「本当だったの・・・・・・」
「マジェンカ」
イェニークの顔が急に真摯なものとなった。そして彼女に声をかけてきた。
「話を聞いて」
「嫌よ!」
だが彼女はそれを拒絶した。
「それは本当だったのね!」
「ああ」
彼はそれを認めた。それがマジェンカの心をさらにかき乱した。
「署名したのね!」
「君に嘘は言わない」
「売った癖に!」
「売ってなんかいない」
「それが嘘なのよ!」
「マジェンカ」
イェニークの声がさらに真面目なものとなった。
「本当に話を聞いて欲しいんだ」
「私の耳は嘘は聞こえないの!」
彼女はそう叫んだ。
「そして私の口は真実しか言わない!」
「マジェンカ・・・・・・」
イェニークはそれでも諦めない。何とか話を聞いてもらおうと努力していた。
「本当のことを聞いてくれないのかい?」
「それはお父さんから聞いたから」
「クルシナさんから?」
「そうよ」
彼が正直者であることはイェニークも知っていた。話がさらにややこしくなると思った。だがそれでも彼は言った。
「それでも聞いてくれないか」
「まだ嘘を言うの!?」
「嘘なんかじゃないんだ」
「それを嘘って言うのよ!」
そして言った。
「もういいわ、決めたわ」
「何を?」
「私結婚するわ、ミーハさんの息子さんと」
「ミーハさんの息子と」
それを聞いたイェニークの顔が急に晴れやかになった。マジェンカはそれを見てさらにいきりたった。
「それがおかしいっていうの!?貴女と結婚しないのよ!」
「君は今自分が何を言ったのかわかっているね」
「勿論よ」
キッとしてそう返した。
「何度でも言うわ。ミーハさんの息子さんと結婚するわ。また言いましょうか?」
「いや、いいよ」
彼はにこりと笑ってそれを制止した。
「ミーハさんの息子さんとだね。よくわかったよ」
「やっぱり」
マジェンカの顔が赤から青に変わった。怒りのあまり血の気が引いてきたのだ。
「私を売ったのね」
「それは違う」
「違わないわ!」
「だから聞いてくれって」
「聞くことなんか!」
「まあ待ちなさい」
騒ぎを耳にしてケツァルが仲介にやって来た。
「事情はどうあれ喧嘩はよくないですぞ」
「あ、ケツァルさん」
イェニークは彼の姿を認めて言い争いを止めた。
「丁度いいところへ」
「人々が必要とされるところに現われるのが私ですから」
彼はにこやかに笑ってそう返した。
「それで何のことでそんなに言い争っておられたのですか?」
「いえ、何」
イェニークは落ち着いて彼に言った。
「契約書のことでね。三〇〇グルデンの」
「何て白々しい」
マジェンカはそれを聞いてまた怒りはじめた。だがイェニークは
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