第三幕その一
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第三幕その一
第三幕 最後は幸福に
イェニークのことはすぐに村中に広まった。それを聞いて憤りを覚えない者はいなかった。
「とんでもない話だな」
「全くだ」
「マジェンカが気の毒だ」
彼等は口々にそう言い合う。だがその中で一人別のことを考えている者がいた。
「どうなるのかなあ」
ヴァシェクは自分のことだけを考えていた。そして一人溜息をついていた。
「母さんも父さんも反対するに決まってるし。僕に味方はいないのかな」
「あら、ヴァシェクじゃない」
そこに黒い髪の小柄な女性がやって来た。赤い民族衣装に身を包んでいる。その顔立ちは如何にも利発そうで可愛らしいものであった。美人ではなかったがよい印象を受ける顔であった。
「あ、先生」
「どうしたの、こんなところで」
黒い翡翠の様な目で彼を見上げる。ヴァシェクはそれだけで胸の鼓動が高まるのを感じていた。この黒い髪と目の女性がエスメラダである。ヴァシェクの想う人である。
「ちょ、ちょっと考えていまして」
「何を考えていたのかしら。言ってみて」
「けど」
だがヴァシェクは口篭もってしまっていた。
「先生にはあまり関係のないことですし」
「私には関係のないこと」
「は、はい」
彼はそう言って誤魔化した。
「そうなの。何だかわからないけれど」
それ以上聞こうとはしなかった。気にはなったがとりたてて聞くまでもないと思ったからだ。
「まあいいわ。それじゃあね」
「はい」
「それにしても。私も早く身を固めたいわ」
そう言いながらエスメラダは何処かへ行ってしまった。ヴァシェクはその後ろ姿を見送り一人溜息をついた。
「ああ」
そして側にあった切り株の上に腰掛ける。それからまた溜息をついた。
「はっきり言えたらなあ。どうして言えないんだろう」
彼にとってそれがッ最大の悩みであり苦しみであった。
「何とかしたいけれど。何にもできないな」
困っていた。だがそんな彼を神は決して見捨ててはいなかった。
「あれか」
それを遠くから見る一つの影があった。
「話には聞いていたけれどあまり活発そうじゃないな。どうやら噂通りみたいだ」
「先生に何とか告白したいけれど」
「先生?ははあ」
その影はそれを聞いてその先生が誰かすぐにわかった。
「あの人か。何だ、あいつはあいつで困っていたのか」
影はそれに気付いてにんまりと笑った。
「これは好都合だ。あいつを先生と一緒にさせればさらにいい」
「けれどどうやって先生と一緒になろうか」
「そんなのは簡単だな」
「ああ、どうすれば」
「頭は抱える為にあるんじゃないさ。考える為にあるんだ」
そう言うとヴァシェクの前に出て来た。黒い上着と白いズボンの若者であった
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ