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売られた花嫁
第二幕その七
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第二幕その七

「イェニーク、それは本当か!」
「嘘じゃないんだな!」
「まあまあ皆さん」
 ケツァルはそんな彼等をここは宥めた。
「怒られないように。これはもう決まったことですから」
「ううむ」
 彼等はそれを聞いて何とか感情を抑えた。だがその顔は怒ったままであった。何とか理性で抑えているといった感じであった。
「詳しいことはこちらに」
 ケツァルは契約書を見せながら村人達に対して言う。
「読めない方は読める方に聞いて下さい」
 読める者がそれを見る。そこには確かにケツァルの言ったことがそのまま書かれていた。間違いはなかった。
「イェニーク」
 村人達はあらためて彼を睨みつけた。
「そんな奴だったんだな。見損なったぞ」
 だが彼は涼しい顔でソーセージを食べビールを飲んでいる。批判なぞ何処吹く風といった様子であった。
「自分の恋人を売るとはな」
「しかもはした金で。そんなに金が欲しいのか」
「皆さん」
 ケツァルはここで善良そうな顔で一同に対して言った。
「お金は何よりも大切なものですが」
「あんたにとってはな」
 彼等は冷たくそう言い放った。
「だがこいつは違っていたんだ。少なくとも今まではそう言っていた」
「それが急にマジェンカを売ったんだ。どういうことかわかるな」
「よくあることです」
 だがケツァルの声は素っ気ないものであった。
「そうではないですか」
「あんたにはどうやらわからんみたいだな」
「人生を長くやっていればわかりますよ」
 それでもケツァルの答えはシニカルなものであった。
「かみさんと長くいるとね」
 恐妻家故の言葉であった。
「まあいいでしょう。イェニークさん」
「はい」
「サインがまだでしたね。サインをして頂けますか」
「わかりました」
 ケツァルからペンを受け取った。鳥の羽根のペンである。
「ここですね」
「はい」 
 指差したところにペンを持ってくる。既にインクはつけている。
「イェニーク」
 村人の中にはクルシナもいた。彼はイェニークを睨みつけながら声をかけてきた。
「クルシナさん」
「確かに俺はマジェンカとミーハさんの息子さんとの結婚を承諾した」
「はい」
「だがあんたのことは認めてきたつもりだ。しかしそれは誤りであったみたいだな」
「そうですか」
 イェニークの返答はやはり素っ気ないものであった。
「あんたみたいな恥知らずは知らん。一体どういうつもりなんだ」
「そうだそうだ」
 他の村人達もそれに続いた。
「イェニーク、見損なったぞ」
「御前はそんな奴だったのか」
「おい答えろ」
「返事をしろ、どうなんだ」
「ケツァルさん」
 だがイェニークはそれに答えずにケツァルに顔を向けていた。そして彼に問うた。

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