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東方調酒録
閑話 ミノムシは瓶の中
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る。今はそのにおいでさえ邪魔であった。今悠は鼻に全神経を集中させている。かすかに匂ってくる香ばしい香りを懸命に掴んでいた。その時、悠の持っていた藁に何かが落ち、青とも緑ともつかない炎が燃え上がった。全く熱くない炎である。霖之助は驚いた様子でもなくそれを見ていた。悠はすこし喜び、ビンの蓋を開け藁ごとその炎を中に入れた。
「それはミノムシだね」
霖之助が言った。
「ホタルみたいなものだと思ってたけど、 やっぱり虫なんだね?」
「正確には妖怪だね」
悠が眼の位置までビンを持ち上げて中を覗き込んだ。幻想的な色である。藁が燃えてなくなっているように見えるが、よく見ると虫が食べていた。目が黒い点で、結構愛らしい虫であった。
「ミノはないけど……」
「ミノは体に羽織る蓑のことだ。 よく雨の日に蓑を羽織って外に出るとこいつらに蓑を全部食べられてしまうだよ。迷惑な虫だったが、最近はめっきり見なくなった。 未だにいたのだな」
霖之助も瓶を覗き込んだ。ミノムシはお腹が空いているようで、藁がものすごい勢いで減っていく。
「で、どうするんだコイツ?」
 霖之助がビンを突っついた。炎が少し揺れた。驚いたのだろう。
「飼うつもりだ。 店に置いたら綺麗かなと思って」
「良いかもしれないな」
霖之助が賛同した。悠達はミノムシを明りに歩き始めた。なかなか便利である。
「そろそろだな」
「もうすぐだ」
ほぼ同時に言った。匂いは強くなり、明かりが見えてきた。森が開いて、屋台が一つあった。赤い提灯に『八目うなぎ』と書かれている。二人が探していたものであった。

 二人が屋台に着くと、割烹着を着たミスティア・ローレライが声をかけた。
「いらっしゃい、 寒いでしょ? ささ、座って、座って〜」
夜の森を引きただせる美しい声であった。悠はよくここに来る。ミスティアが「鳥目にしなくても自分から来る人間は君だけだよ」と言ってたくらいだ。
「おそい!」
屋台の左一番端の席に座っていた藤原 妹紅が机に肩肘つけながら低い声で言った。白く地面まで着きそうな長い髪が風で少し揺れていた。
「すまん」
悠が謝りながら、妹紅の横に座った。ミノムシは横に置いた。「あら、めずらしい」とミスティアが言った。
「あなたの時間は無限でしょ?」
霖之助がそう言いながら悠の横に座った。
「おなかの時間は有限なんだよ」
二人が来るまで妹紅はけなげに待っていたらしい。先に食べてもいいものをと悠は内心思っていた。
「とりあえずは串焼きと雀酒、 あっと僕は一口だけね」
悠がそう注文した。雀酒はミスティアが復活させた伝説の酒で、味は最高だが、多く飲むと次の日は一日踊ることとなる。
「僕も同じもので」
「私も同じもの。 雀酒はいつもどおりね」
妹紅は雀酒には耐性があるらしい。悠は常々うら
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