第三十八話
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世界を覆う影の話、やんごと無き方々の愛の話をお話したのは初めてです。私が最も信頼すべき祖国の者たちには未だ語ったことがありません。……あと2年ほどしたら開封してほしいと残してきた手紙には記しておきましたが、これは勘定には入らないと思います」
「……状況、そして相手を選んでお話される方ですものね、思慮深いと申しますか……、申したあと忘れてください」
俺の返事を待たずにエーディンさんは意を決したような表情で
「シグルドが……シグルド公子が、ディアドラ様とおっしゃいましたか、その方と結ばれると聞かされて胸が張り裂けんばかりに苦しくて……もうどうなってもいいと思うくらいの気持ちになってしまいましたの。 それに、わたし自身がヴェルダンの蛮族達に拉致されるだなんて身の毛もよだつようなお話を伺って……」
彼女は一度言葉を区切ってから唇を噛み
「あなた様のお話を信じなければ、こんな思いはしないで済むのでしょうけれど……そう、普通ならば痴人の妄想なんて、あ、ご無礼を……」
「いやいや、そう仰られたり思われたりしても致し方ないところです」
「でも、あなた様はわたしの姉のことまで御存じで……神父さまの妹様のことも、神父さまもあなたを御信じなされていて……もしかしたら、この先わたくしたちを騙すための布石であるのかもしれないと自分に言い聞かせても……でも、神父さまの聖杖の見立てと合致されているのならそんなことも無いでしょうし、それなら……もう生きているのもイヤに………」
エーディンさんの流す涙に胸が痛くなった。
「エーディンさま、シグルドさまのことですけれど」
「はい」
「シグルドさまは、あなた様のことを他の誰よりも愛しておいでですよ」
「で、でも、それならなぜ!」
「あなたが蛮族に攫われたと知った時、シアルフィにはまともな戦力がほとんど無かったために彼の家臣は皆、あなたさまの救出に反対と意見を具申することになるのですが……シグルドさまは自分の身などどうなっても良いとあなた様の救出に向かわれるのです。
自分一人で向かうと宣言なされてね。それくらい想っておいでなのですよ」
俺はポケットからハンカチを取り出すとエーディンさんに差しだし
「わたしもいつも思うんですが、愛する人には幸せになってほしいですよね」
「……ええ、それはもう、もちろん」
「そして、何もかも自分だけのものにして独占したいって思ってしまいますよね」
俯いて頷く仕草の彼女を確認して
「でも、自分の想いが成就しなくても、大切な人が幸せになってくれたらそれでいいって思うくらい愛してしまうって境地に至るくらいの愛だってあるんですよね」
俺は彼女の反応を待たず
「それにあの方はお優しいから、自分と同じように命がけであなたを想って
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