30,自己欺瞞のアルタリズム
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オブジェクト化した刀は昔のままの謎の形状だ。
短剣にしては珍しいオレンジ色の柄頭。装飾のない鍔。
何よりも鋭く尖ってしかるべき刀身は先端で直角に折れ曲がり、まるでアンティーク造りの鍵のよう。
何を持ってこのメリッサがログイン時に持ち込またのかはさっぱりわからない。
だけど、これが短剣であるというのなら……短剣で蛮勇を誇った大馬鹿者には丁度いい。
――私は、生きたいよ
聞こえないはずの言葉が聞こえた気がした。
ならば答えは決まっている。
生きることが彼女の望みならば、もはや躊躇うものは何もない。
「――おおおおお」
放つのは、俺にとって最高の攻撃力を誇る中級突進技《ラピッドバイト》。
体の芯から拒絶反応が起こり、俺の目の前がグッと霞む。構うものか、全身全霊を込めて俺は力を開放した。
その時、霞む景色の中で異様なことが起こった。
構えた短剣の周りで空気が揺らぎ、メリッサの刀身がプリズムのように周囲に拡散していく。
ヘックス状に保たれた剣先は鍔を中心として放射状に拡散しているので、まるで花びらのようだ。
咲き誇る一輪の剣の花。
スキルエフェクト音は幾重にも重なりあって、花に集まる蜜蜂の羽音となる。
打突の衝撃が体の芯を突き抜けていく。
扉は中心からゆっくりとヒビ割れていき、目の前で木っ端微塵に砕け散った。
飛び込んできたのは、2つの光景。
フロア全体にひしめき合う二種類のモンスター。
そして、その頭上から地面へと墜落するサチの姿。
地面とサチとの間に体を滑り込ませる。筋力値の低い俺がそんなもの受け止められるわけもなく、二人重なりあって扉の外にまで吹き飛ばされた。
数秒たっても、抱きしめた体からガラスの破砕音が消えて来ることは無かった。
代わりにイヤリングとしてつけていた鈴がチリン、と鳴り響く。
サチはうっすらと目を開き、俺を見た。
その目には驚きと安堵が9:1くらいで混合されている。
「《旋風》推参、ってな」
説明は後だ、とポーチからヒールクリスタルを取り出し、サチに使った。
数ドットまで追いやられていたサチのライフが瞬時に全快する。
すぐさま立ち上がると扉の方へと駆け寄った。
中には相変わらずモンスターであふれているがこちらへと向かってくるものはいない。
恐らくは、この隠し部屋の中にいるプレイヤーを殲滅する様にアルゴリズムが書き換えられているのだろう。
「外に出れば助かるぞ。入り口まで走れ!!」
叫びはフロアの中に響き渡り、僅かな時間差を持って剣の舞によって答えられた。
2つの突進系スキルの煌めきとともに、キリトとケイタが同時に走りこんでくる。
「他は!!??」
「――コレで全員だ」
キリトは顔を上げずに答えた
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