30,自己欺瞞のアルタリズム
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
日はこのまま攻略組にかけ上がっていけばすぐになくなる筈だ。もっともその時に、俺がこの場所にいるかはわからないが。
これからたくさんの思い出を積めていく部屋で俺はたった一人、皆を待って佇んでいた。
25層の事件があってからかなりの月日が流れた今でも、まともに戦闘を行うことは出来ない。
剣を構えた瞬間に思い出すのは、斬られる事での痛みに似た不快感でも自分の死の恐怖でもない。
アルゴの泣き叫ぶ声とそれを無力に見ることしか出来ない自分の姿、そして純粋に俺を案じてくれる優しい声だ。
もしも、俺が死にかけたらアイツは身を呈してでも俺を守るだろう。
そんなのはゴメンだ。もしも、それでアルゴが死んだらどうなる?
俺が誰かを救うために別の誰かを犠牲にするなら、それは誰も救えていないのと一緒だ。
それは悪夢の焼き直し。
俺はもうあんな地獄は味わいたくない。
「しかし、遅いな」
独りでいるせいか、嫌な記憶を拭い去ることが出来ない。
振り払うことの出来ない恐怖がじわじわと沸き上がってくる。
そんなはずはない。あのキリトがついている以上、黒猫団は、そしてサチは安全なはずだ。
一応、メッセージを飛ばしておくか。
ギルドメンバーへと一斉メッセージを送ろうとして、手が止まった。
メッセージ欄の見慣れたギルドリストの一覧。その中で一人、文字が灰色になっている。
βテストならばログアウトの意味を示すものだが、ログアウト不能の本サービスでは別の意味になる。
「ダッカーが……死んだ」
俺は本能のままにホームを飛び出していた。
轟々という風切り音がいつの間にか響きわたっている。
何も考えないままに、俺は転移門から28層へと移動し、さらにそこから圏外へと走り去っていた。
いつの再来か、モンスター達が俺の後ろから大量に追いすがってくる。
振り向いてはいけない。
今回は、相手をする時間も腕を震わせて立ち止まる時間もない。
そのまま見たこともない迷宮区の中へと走りこみ、闇雲に走り続ける。
マッピングデータは持ち合わせていない。
今日は商談だけと思っていたから、短剣だって二本しか持ち合わせていない。
何より、俺が行った所で戦えないのだから、何も出来ないかもしれない。
たどり着く前にモンスターに挟まれれば、俺は間違いなく死ぬだろう。
だけど、どうせ無理だ……なんて諦めていられるか。
助けられない公算なんていらない。
助けるんだ。
今度こそ、完璧に!!
これは、特攻だ。
だけど、自己犠牲でも利他主義でもない。
これは俺の自己欺瞞――後生大事に抱え込んだ約束を守るための、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ