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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十五話 千客万来・桜契社(下)
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 これにも守原英康は鷹揚に頷き、駒州公へ向き直る。
「駒城大将殿もご健勝そうで、」
「いえいえ。守原殿こそ、御噂はかねがね」
 愛想よく儀礼的なやりとりをこうして二三交わし、僅かに頬を歪めながら守原が本題をきり出した。
「それにしても丁度良く御目通りができて慶賀の至りですな、其方の陪臣の佐脇家、そこの世継に大隊を与えたいのですが」
と言った。
「佐脇?俊兼ですかな?」
 篤胤は珍しく眉にしわを寄せて答えた。
「えぇ、優秀な将校だと聞きまして。この不可侵の楽土たる御国の危機です。閨閥に関わらず出来る者には相応の地位を与えるべきかと」
 ――アンタの横に一度も戦塵を浴びていない少将をおいてよく言う。

「丁度、空きがありましてな、再編中の独立捜索剣虎兵第十一大隊を任せる事にしました。
北領でみせた勇戦振りに劣らぬ戦果を上げてくれると信じております」
皆がかつての大隊長達へ視線を向けた。

「第十一大隊がかつての精強さを取り戻すというのならば――それは非常に喜ばしい限りです」
 と新城が獲物を狙う剣牙虎のように慎重な口調で答えると
「えぇ、かの大隊が曾ての如き精強さを取り戻してくださるでしょう。
彼は度胸も知性もあります、部下を見捨てて逃げ出す様な真似をしないでしょう。
彼ならば自分はおろか伊藤大佐殿にもけして劣らないでしょう。」
 と馬堂中佐も頷き、無感情な声で――無感情に笑った。
「閣下の御慧眼には感嘆の極みです」
 その顔と声には空虚さしか感じさせず、皮肉の矛先となった守原大将ですら当惑を隠せなかった。
「守原大将、中佐もこう言っているのだ。どうかな?一緒に一献。」
 面白そうに事の成り行きを見ていた駒州公がそういいながら給仕を呼ぼうとすると、虚をつかれた守原英康は慌てて先程の鷹揚さからかけ離れた様子でもごもごと謝絶し、大会堂から出て行った。最後まで我関せず、と露骨なまでに振舞っていた草浪中佐だけが丁寧に敬礼を奉げて立ち去って行った。



同日 午後第六刻 南一条筋
馬堂家嫡男 馬堂豊久

「――――」
 隣を黙々と歩いている新城を見て豊久は内心肩を竦めた。
 彼の旧友は明らかに機嫌が悪く、その原因もまた分かりきっている。
 それは駒城の親子も当然理解しており、駒州公閣下の直々の密命を受け、馬堂豊久が御育預殿の相手をする羽目になったのである。これはこの十数年で半ば慣例化している状況であった
 ――いっそこの世界初の心療内科でもひらいていればよかったかな。
と溜息をつくと新城が豊久をじろりと睨んだ。
「――俺は佐脇さんじゃないよ。」
「分っている」
 そういいながらも剣呑な目つきは戻らない。
或いは元からこん
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