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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十五話 千客万来・桜契社(下)
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動いている。予備予算分は既に事前計画の前倒しの為に運用されている。後は衆民院に提出する緊急予算案の編成中だ。問題はこちらでな。陸水の要望をどこまで削るかで大揉めだ。流石に両者の案を鵜呑みにしたら国が傾く。特に水軍の場合は補助艦はまだしも、主力艦は長ければ進水まで3年はかかる。前倒し分や改装ならどうにかなるが、即時性だけを見るならばどうしても陸軍を優先せねばならん面もある」
「はい、それについては私も残念ながら同意せざるをえません。ですがアスローン等の交易・外交用の航路の確保だけでなく東州の連絡線の確保を行う為にも補助艦だけでも艦隊の拡充は急務です。その点については強く確信しています」
と豊守と笹嶋が今後の水軍戦力についての拡充について言葉を交わし
「――あぁ、すでに聯隊砲兵大隊の編成も完了しつつある。将校の評定についても富成砲兵参謀も“もったいないくらいだ”と太鼓判を押していた。これで第四十四聯隊編入される既存部隊の人事は基本的に終わりだ。本部の編制は完了までしばしかかるが、それさえ終わればすくなくとも書類通りの編制は完了する。後は君が確と十全に機能するようにすれば構想通りの運用に耐えうるようになるだろう」
「はい、ありがとうございます、若殿様。」
鎮台司令官と新設聯隊の長が実務的な言葉を交わす。
 軍人たちの集まりらしく当初は色気のない話が肴であったが、酒や料理が進むにつれて自然と空気が和らいでゆく。そして宴も酣を過ぎたころ、乾いた声が円卓を囲むもの達の耳朶をうった。
「まさに我が世の春だな、少佐」
 守原英康と守原定康が立っていた。 彼らの半歩後ろに見覚えのない男が立っている。
兎にも角にも皆が(先任大将である駒州公以外は)不本意ながら敬礼をしなければならない。
「――草浪中佐も御同行と来たか。護州の懐刀まで持ち込むとは、厄介事でしょうか?」
「だろうな」
 陸軍の事情に疎い笹嶋にも、お隣の馬堂さん達がぼそぼそと話している内容から残りの一人も彼等の御同類と分かる。
「御健勝そうで何よりです、守原閣下」
 保胤中将が穏和な微笑を浮かべ挨拶をする。
「なんのなんの、駒城中将。駒州が御大将と若殿に親王殿下。そして兵部省の屋台骨殿に北領の勇士達までもがいらっしゃるのだ。お見かけしたとあらば御挨拶せねばなりますまい」
 鷹揚な振る舞いを見せながら守原大将が言葉を続ける。
「中将殿は、確かうちの甥とは。」
「ええ、何度か。」
 一見和やかに話が進んでいるが双方ともに、にこやかな表情を張り付つけるが、厚い皮の奥に潜むその瞳は北領の凍土よりも冷厳であり、また同時に極めて伝統的で古びた敵意に燃え盛っていた。
「実仁少将、今日はまた」
「新しく幕営に加わる将校と言葉を交わしたくてな、守原大将
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