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目の前の壁
とらうま
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寝坊なんて言ってないんだが」
壁越しでも解るくらい、お兄ちゃんのニヤニヤした顔が見えた。ついつい心にも無い言葉が漏れる。
「も、もう!お兄ちゃんの意地悪!お兄ちゃんなんて大嫌――」
「すまない、なのは。もう一度やり直そう!」
大嫌い、と言おうとした瞬間ズザーという音が聞こえた。
……うん、壁越しでも解るくらい見事な土下座だ。
「にゃはは……。う、嘘だよ。お兄ちゃんの事、大好きだよ?」
「……」
「お兄ちゃん?」
返事が返って来ないので不思議に思い、一旦ベッドから出て、ドアを開けてみる。
「お兄ちゃん?居ないの?」
案の定、そこには誰も居なくて代わりに「野暮用を思い出した」という紙だけが残してあった。
野暮用って……こんな夜遅くに何だろう?
「なのは〜、寝たか〜?」
一階からお父さんの声が聞こえて来た。
「はーい。お休み〜」
お休みと、声が返ってきた。
そのままベッドにもう一度入る。まだ体温が残ったベッドが心地好く、今度はすんなり眠りに落ちていけた。
――落ちていく中、考える。
私の好きなモノ……
お兄ちゃん?大好きだ。
お母さん?大好きだ。
お父さん?大好きだ。
お姉ちゃん?大好きだ。
アリサちゃん?大好きだ。
すずかちゃん?大好きだ。
学校の皆?大好きだ。
月村の皆?おじいちゃん、おばちゃん?学校に行く途中挨拶してくれる人?……
大好きだ。一人残らず大好きだ。大好きだ。大好きだ……
……
たすけて
え?
幸せの中で眠っていた中、ノイズが紛れこんだ。
誰か、助けて
違う。ノイズなんかじゃない。
何が何だか解らないけど、必要に助けを呼ぶ声が聞こえた。時計は朝の5:00を示している。
たすけて
相変わらず声が聞こえる。
――その時、何で私が彼の元に行ったか、もう忘れてしまった。多分、あの声が余りに切実に聴こえたからだろう――
気が付けば、私は昼間来た動物病院――から少し離れた場所に在る河原に来ていた。そこには昼間、雑木林で怪我をしていたフェレットさんと……見たことの無い、おぞましい姿をした「何か」が居た。そう形容するしか無かった。十メートルを超すような体一面を、ヘドロのような何かで覆われ、身体中からあちこちに触手が生えている。そんな生物からかけ離れた様な何かだったけど、その目だけは獲物をいたぶる残虐な赤に彩られ爛々と輝いていた。
「ひっ……」
思わず足がすくむ。幸いな事に「何か」は此方に気付いていない。今なら未だ間に合う。逃げるんだ……
「来て、くれたんだ」
しかし、不幸な事にユーノ・スクライアは最後の希望に気付いてしまった。
「い、いや……」
来ないで……気付かれちゃう……!
ユーノはその少女の恐怖に彩られた表情に気付かない。必死だった。彼はただ必死だった。何とかして、
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