6部分:第一幕その六
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」
つまり美女達である。実にわかりやすい。
「それでだね」
「うん」
伯爵は友人の言葉に頷く。
「宴は仮初めのもの。ならば化けていこう」
「では誰になろうかな」
だんだん仮面舞踏会めいてきた。これもまた宴らしくていいものだと伯爵はそれにも乗るのであった。
「外国人になればいい。ルナール伯爵でどうかな」
「フランス人かね」
「そう、フランス皇帝の側に仕える貴族だ」
「うん、悪くないね」
この時のフランスは第二帝政であった。ナポレオン二世が国民の人気を上手い具合に取りながら派手な政治を進めていた。彼によりパリの街は整備され放射状に整った道路も緑も置かれたのである。それまでのパリはセーヌ川には汚物が溢れ街は複雑に入り組んだ実に厄介な迷路であった。もっとも今でもどういうわけか犬の糞はあちこちにある。その前はそれに人糞も溢れていたのであるが。
「牢獄の忌々しい八日間が健康を損ねない為に浩然の気を養おう」
「そうだな。それがいい」
これは後付の理由であった。だが納得できるものである。後付でも適当な理由があれば人は納得するものであるからだ。そこが実にわかり易い。
「では正装にだね」
「わかった。いやあ、楽しみだ」
「その楽しみこそが人生なのだ」
「そう、人生は楽しむこと」
「わかってくれたな」
「よくね」
「どうしたの?」
あまりに急に朗らかな声が聞こえてくるので奥方は気になって大広間に戻ってきた。
「気が晴れたにしろ少し」
「ローザ」
伯爵は奥方の愛称を言ってきた。やはり明るい声であった。
「おかげで元気になったよ」
「はあ」
少し元気過ぎはしないかと思ったがそれは口には出さなかった。
「それは何よりですけれど。すぐに出掛けられるのですか?」
「うん」
彼はまた機嫌よく答えてきた。
「それでね」
「ええ」
「着替えをしないとね。正装に」
「えっ!?」
そう言われて思わず我が耳を疑った。夫本人にも問う。
「今何と仰いました?」
「だから正装に着替えるんだよ」
さっきよりもさらに明るいうきうきした声であった。
「わかったね。じゃあ」
そこまで言うと一旦自分の部屋に戻った。博士が呆然とする奥方に対して言ってきた。彼は彼で何か思わせぶりに笑っていた。
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