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東方調酒録
第四夜 八雲紫は底が知れない
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イ・ジン、スウィート・ベルモット、シャルトリューズをカウンターに並べた。そしてそれらをシェリーグラスにボトルから直接スウィート・ベルモット、シャルトリューズ、ドライ・ジンの順番にゆっくりと静かに注いだ。そうすることにより、比重の違いから下からルビー、グリーン、ホワイトと三段混ざらずに重なったものがグラスに出来上がる。それを見て紫はほう……と感嘆を漏らした。
「このようなスタイルをプースカフェスタイルと言うんだ。 それから……」
「境界と言いたいのだな」
先に言いたいこと言われて悠はすこし戸惑った。
「はい、その通りです。 カクテルは本来なら混ざらないもの、 別々に飲んでもおいしいお酒を混ぜて、さらにおいしいお酒を創ることなんだ。 それはあなたの能力の境界を操るに少し……いえ、ほんの少しだけ近いかもしれません」
「なるほど、それで私にカクテルが似合うといったのね」
紫はグラスを手に取ろうとした。悠があわてて止めた。
「待って! それで完成ではないです」
悠はグラスを持ち上げた。
「この状態でビジューという名のカクテルで、フランス語で宝石という意味です。一番下の赤がルビー、真ん中のグリーンがエメラルド、そして一番上の白がダイヤとなってます」
そう言いながら悠はそれを氷の入ったミキシング・グラスに流しいれた。そしてそれを軽くステアした。色は琥珀色に変わり、カクテルグラスに移した。
「アンバードリームです」
悠が紫にグラスを差し出した。
「琥珀の夢、 ずいぶんとおしゃれな名前ね」
紫はグラスを持ちゆっくりとその小さな口に付けた。ほんの少し顔を上げ、グラスを傾けた。その眼は悠を見ている。その見下すような眼は悠の胸にむずむずとしたものを与えた。半分まで飲んで紫は唇に微量な水滴を残しながらグラスを離した。
「美味しいわ、 でもなぜこれが私に一番合うのかしら? 」
「ええ、 貴女に琥珀が合うと思ったからです」
「ふ〜ん」
またしても紫は妖しく笑った。琥珀は、ただの松脂の化石である。宝石のような華やかな輝きは無いが、数万年のときを経て宝石とは全く違う美しさを得る。夢のような長い時間から得られる夢のような美しさ、紫がそれであるように感じられた。だがそんなことは口に出して言えるはずがない。紫にはきっと其れが分かっていたのだろう。
 ――その後、紫はそれが気に入ったのか、十杯ぐらい飲み、他にも何種類かのカクテルを何杯も飲んだ。酒の量もそこが知れない方であった。多忙を極める悠に声がかかった。
「一番手間のかかるカクテルって何?」
「トム・アンド・ジェリー」
紫に気を取られていた悠は答えて、はっとした。
「じゃあ、それで!」
そうにっこりと笑って言ったのは、和服を着て、頭に花飾りをつけた稗田阿求であった。
 涙目でトム・アンド・ジェリー
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