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銀河日記
カルテ作り(一)
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た。

「ふむ、かけてきたか、覚悟はあるようだな」
声は録音されたものよりは力があったが、同一人物であることは間違いなかった。そしてその発言にアルブレヒトは少々自分の性急さを呪った。そして理解した。この要件は裏に通ずる内容なのだと。

「…職務中により留守にしていたため、出られず申し訳ない。それで、卿は小官に一体何の用が御有りですかな」
数秒の沈黙で息を整えてからアルブレヒトが尋ねた。
「折り入って、卿に調べてもらいたい事がある。今そちらに送った資料を見てくれ」
声が短くそう言うと、TV電話のFAX機能が作動し、数枚の書類を鈍い音のスタッカートとともに吐き出し始めた。部屋に現れたもの達を拾うものは無く、木の葉のようにフローリングの床の上に落ちる。
屈んだアルブレヒトはそれらを拾い、目を通した。

「これは、なんと‥」
アルブレヒトはその先を紡げなかった。そこには、驚くべき内容が記されていた。金と物資の流れ、そしてそれが行き着く先。それは軍や省庁などの国家機関のものだけではなく、宮廷に出仕したり、惑星を領有したりしている大貴族達のものも混じっていた。

数行読む度に、アルブレヒトの背中を冷たい汗が駆け降りた。アルブレヒトのライトグリーンの瞳が無個性な文字の羅列に向けられている間、紅茶かコーヒーか、容器に注がれた飲み物を啜る音が彼の鼓膜を揺らした。だが、それに彼は気付かない。目の前にある黒い無機物の羅列に心を奪われていたからだ。そこまで意識が回らなかった。

「分かるかね。中佐」
相手の言葉にアルブレヒトはため息をつきたくなった。
「…小官に手術をしろと貴方はおっしゃるのですな。さすれば恐らく、恐ろしく膨大な量のカルテが出来ますでしょう。病状を抑えるのに少なくとも年単位で時間を要しましょう。最悪幾つもの皮膚や組織、もしくは手足を切り落とすかもしれませんが。卿はそれを真に望まれるのでしょうか?卿の望まれない手術を小官は行いたくないのですが」
アルブレヒトは、その瞳の色に相反する暗い光を輝かせて前の画面を見つめ返した。それは昂揚などではない、不安の感情がなす輝きだった。

自分が劇薬を投与しようとしているのを、彼は確信した。それがどんな副作用を及ぼすかも、ある程度その脳裏に浮かんでいる。運が悪ければもっとひどい事になるだろう。それでも投与しないよりはマシだと、思わざるを得なかった。その事実が、彼の脳内にぼんやりと浮かび上がってきていた。

「そうだ。卿が手術を執り行い、レーザー・メスを持つのだ。そうすれば、たった数年だけかもしれんがその肉体は長生きしよう。患者の許可は取ってある。いや、取っていなくとも、事後承諾でも一向に私は構わんのだが」
「畏まりました。小官のほうでできる限りの努力はしてみます。ただし、過度な期待はな
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