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銀河日記
カルテ作り(一)
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んだ、自分の数代前の担当者はそれを考えていたのではなかったか、と不意にエーレンベルク元帥は思った。まったく、自分でも思ってもみないことだった。

帝国歴四三六年の第二次ティアマト会戦において自らの二人の息子の仇の叛徒の首魁ブルース・アッシュビーの死を目前にして、病の床に伏し、そのままヴァルハラへと旅立った彼は帝国への忠誠心熱き男であったのを、エーレンベルク、この老元帥は覚えている。仇への恨みも、幾度となく感じた。彼の言葉、口調、動作、仕事振り。その全てが、雄弁にそれを物語っていた。

だが、本当に彼の思いはただそれだけであったのだろうか。愛する者の死を受けて、早い戦いの終わりを、望んでいたのではなかったか。それを思い、彼は一度瞼を閉じた。
エーレンベルク元帥の瞼の裏には彼がヴァルハラへと旅立つ前、あの会戦の三年前に、諸将を叱咤した光景が浮かぶ。その口調と決意は確かに、その場にいた皆の胸に届いただろう。だが、その強い語気の裏にはそんな思いが無かったとは言えないのだろうか。
まったく、

私は何を感傷的になっているのか。いい加減に年のようだ。

エーレンベルク元帥は再び目を開けると考えを止め、追加分も含めた書類の決裁に取り掛かった。確かにこれほどの数値の誤差は問題だ。だが横領などであるならば、それを表す決定的な物的証拠がない。そのような証拠がなければ憲兵隊を動かせない。逮捕しても軍法会議でも証拠不十分で無罪放免となり、あやふやになってしまう。軍法会議の議長をするのは軍務尚書の職務なのだ。それだけはなんとしても避けたい。今はその書類を頭の片隅に収め、処理していくしかなかった。今の段階では。


その後、アルブレヒトは軍務尚書室から分室に戻ると、オーベルシュタインの補佐に勤しんだ。
その日の勤務が終了し、アルブレヒトが自宅に戻ると、家にあるTV電話にメッセージが入っていた。留守電機能が作動したものであるの意は明白であった。家の主はベアトリクスかと思ったが、それは違った。
アルブレヒトは画面の横にある白いボタンを押して、再生をスタートさせた。すると、画面は黒く変化したものの、そこには誰の顔も表示されず、音声と文字だけだったのである。あの女性であれば、こんなことはしないはずだった。

「軍務省第五監察局第二分室副室長、アルブレヒト・ヴェンツェル・フォン・デューラー中佐。このメッセージを確認次第、この番号にかけられたし」
たった数秒の短いメッセージと数行の文の後に、発信先のTV電話の番号が表示されていた。その声は何処か老いを感じさせる、覇気のないものであった。

アルブレヒトは番号を確認して、発信機能を使用した。そして、約一分後、画面に反応が現れた。だが、その画面は黒く、声だけが聞こえるように設定されている。先程と何ら変わりは無かっ
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