カルテ作り(一)
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」
訪問客が部屋に入ってくると、エーレンベルク元帥は眉間に明確な深い皺を寄せ、その人物が持ってきた書類の束を見て溜息をついた。
「どうやら、我が分室長殿は手加減という言葉を御存じではない方なので。何卒御容赦を願います、閣下」
老齢の軍務尚書の嘆きとも愚痴とも取れる言葉にアルブレヒトは苦笑し、そう返した。
「そう言うが卿も同じだ、中佐。人の事を棚に上げおって。…まぁ、軍務省には人が多いのだ。そう言う輩が一人や二人ぐらいはいてもよかろう」
「小官と致しましては、一人や二人と言わず、せめて百人ぐらいは欲しいものかと思います」
「まぁ、各部署に一人ぐらい配置すれば職務も滞らずにいいだろう。よろしい、見させてもらう。下がってよろしい」
「はっ」
「中佐、少し待て」
アルブレヒトが敬礼をして退出しようとすると、エーレンベルク元帥の声がそれを止めた。元帥の片手の中には数枚の書類があり、その中身を確認していた。
「まさか、これ全て再提出勧告の書類と卿は言うのか」
「左様です。軍務尚書閣下。全て出荷量、消費量などの数値の誤差が著しく、輸送効率の著しい低下もしくは改竄等の可能性がある書類だとみなしました。僭越ながら、そろそろ該当部署に参事官の派遣などの具体的措置をおとりになっては如何でしょうか?このまま放置し続けるのもいかがなものかと、小官は愚考いたしますが」
「いい加減、必要かもしれんな。やらずにいれば私が過労死してしまうわ。呼び止めて悪かった。行ってよし」
エーレンベルク元帥は先ほど生まれた紙の塔を見つめる恨めしそうな視線と、呆れかえったような声でアルブレヒトの提案に応えた。上官の言葉に応え、アルブレヒトは途切れかけた敬礼をして、尚書室を退室した。
アルブレヒトが退出していった尚書室のドアを見ながら、山の天辺から取った十枚の書類を机の上に置いてエーレンベルク元帥は思考を巡らせていた。
まったく、あの新たに設立された分室のせいで、私が一日に決済する書類の量が増えてしまってではないか。容赦のない厳しい指摘ではあるが、部署、任地、階級などの隔たりなく公平さは確立されている。しかし、こうも再提出や勧告を求められるような書類が増えるとなると、中佐の言うとおり何かしらの手を打たなくてはならんかもしれんな。傷が広がる前になんとかするべきだろう。
エーレンベルクは提出されてくる再提出勧告の書類に確かな危機感を覚えた。銀河帝国の歴史は五世紀に及ばんとし、イゼルローン回廊の向こうにいる叛乱軍?自由惑星同盟軍?との戦争はもう百五十年に達しようとしている。その中で軍規が緩み、不正が出てくるのであれば、帝国の更なる繁栄と平穏の為それを一掃し、改善する必要があるだろう。そうすれば帝国軍は強化され、この戦争も早く終結するのかもしれない。
四十年以上前に死
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