1部分:第一幕その一
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「いいですよ」
「そうなの」
「それにですね」
アデーレは封を切ったその手紙を見ながら述べてきた。
「お金の話じゃないですし」
「そうだったの」
「今夜のことですね。都合よく」
「大晦日のこと?」
「そうです。何でもオルロフスキーさんって人のお家で宴会が行われるそうで」
「ああ、あの方ね」
奥方はそのオルロフスキーという名を聞いて頷いてきた。
「御存知なんですか」
「ロシアの貴族の方よ。かなり有名なのよ」
彼女はアデーレにそう語る。
「公爵家の方でね。お金と暇を持て余していて」
「素晴らしい方ですね」
アデーレはそれを聞いただけで感激を見せてきた。
「お金と暇が一杯あるなんて。何て羨ましい方」
「けれど御本人はそうは考えていらっしゃらないのよ」
そうアデーレに語る。
「とにかく退屈だそうで。困ってらっしゃるわ」
「そうなんですか。何かわかりませんね」
「人それぞれよ。それでね」
奥方はさらにアデーレに言う。
「何て書いてあるの?」
「私をそのパーティーに案内するそうです」
「貴女を」
「はい」
アデーレは答える。
「やっぱりこの服じゃまずいですよね」
メイド服のスカートの端を摘んで言う。当然その格好では宴に行ける筈もなかった。やはり宴ともなれば正装が基本であるからだ。
「ドレスは持っていないの?」
「前は持っていました」
アデーレは答える。
「けれどこの前ワインとケーキで汚れて。今洗っているところです」
「何やってるのよ」
奥方はそれを聞いて口を尖らせてきた。
「折角のドレスにそんなことして。高かったんでしょ?」
「ここのお給料の殆どがそれで消えちゃってます」
アデーレは悲しい顔でそう述べた。
「だから今とても悲しいです」
「そうでしょうね。パーティーにも参加できないし」
「小鳩になって潜り込めればいいのに」
「じゃあ魔女の黒い服がいいの?」
「いえ、私が欲しいのは純白のドレスです」
そう奥方に返す。
「今はないですけれど」
「残念だけれど諦めるしかないわね」
「はい」
泣きそうな声で答える。
「悲しいですけれど」
「そんなに落ち込まないで」
奥方はここで彼女に対して気遣う言葉をかけた。
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