ナツキ・エンドーと白い女神
考古学者タイチ・ツブキ
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ドナウ河の流域には大きな遺跡の類のモノは見付かっていませんよ?」
「そう、そこが問題なのです。先程もお話した通り、現代の大規模な調査技術を駆使してもドナウ河には遺跡と呼べるものはありませんでした。しかし、現代の技術と言えども詳しく調査しないと中々見つからない物だって存在します。例えば木材の様な土に還る素材や煉瓦の様な素焼きの素材は、風化と共に自然へと回帰してしまいます」
真剣な眼差しで聞いてくれる生徒たちに話をするのはとても面白い。いつぞやの、俺を異端児扱いしてきた頭の固い爺さんどもとは大違いだ。
「流れる時と共に朽ち、また再生する建造を作る文化は、考古学的には非常に厄介なのです。例えば、日本は諸行無常、万物流転を考え方の根本に持ってます。なので彼らは、いつか壊れる事を前提に自然に回帰が可能な木造の文化を築いて来ました。
ホワイトゴッデス。白い女神の宗教の文明もまた、遺跡の発掘調査では非常に発見しにくいとされる木造の文明を築いていたのではないか。と、考えているのです」
そこでまた一人の生徒が声を上げる。
「しかし西洋は昔から自然に打ち勝つ、永遠の強さを求めた文化だったのではありませんか?」
「いいや、違います。君、名前は?」
生徒を指差して問うと、その子は少し気恥ずかしそうに答える。
「マイク・マクドナルドです」
「オーケー、ミスターマイク。君の言う『昔』とはいつのことだい?」
マイクは頭をかきながら答えた。
「人の死に対する思想が、死生観が成立した頃のことです」
死生観の成立。すなわち生とは何で、死した者はどこへ向かうのか。そんな哲学的な命題が人類の中で考えられ始めた頃の事だ。
その頃から人類はヒトから人間へと変わっていったとする学者もいる。
「そうだね、確かにその見方だと疑問も生まれるだろう。ただ、時代を追えば答えはわかる。死生観が産まれるから、人は「死」に対抗する。そして死があり、死後があるから人は生命について考え、その結果神が産まれ、神の恐れを以って大規模な統治が成り立った。すなわち文明と宗教の始まりだ」
俺の恩師は、この時代の事を「形而上の始まり」と言っていた。ここから先は宗教的な話や神についての話なのでいささか考古学とは乖離した話になってしまうが仕方ないだろう。
「そうしてあらかたの文明が築かれた後、それぞれの文明は次に自身の生息域を広げにかかった。いわゆる、侵略活動だ。昔の帝国主義とも言えるね」
「あっ……」
流石は鋭い指摘をしてきただけあって、もうマイクは俺の言いたい事に気付いた様だ。しかし他の生徒は大半がチンプンカンプンみたいなので話を続ける。
「壊れない事を重視する勇ましい文明と、壊れた先を見据えた柔らかな
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