暁 〜小説投稿サイト〜
形而下の神々
ナツキ・エンドーと白い女神
考古学者タイチ・ツブキ
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「……では、ここでもう一つの観点からこの時代を見てみましょう」

 俺はホワイトボードに書かれた世界地図の、4つの印をそれぞれ指差す。


「皆さんがかつて学んだ通り、これら4つの文明はそれぞれ大きな河の流れとともにあります。

 チグリス・ユーフラテス河を中心に栄えたメソポタミア文明。
 ナイル河流域に栄華を誇るエジプト文明。
 インダス河を生活の中心とするインダス文明。
 黄河を龍とし、神とした黄河文明。

 しかし、現代の科学技術で行う発掘は、これらと同時期に発展していったとされる文明を20以上も発見しました。
 ただ、私には不思議に思う点があるのです」

 俺は赤いペンで、今のフランスからルーマニアまでの辺りを横に細く囲んだ。


「ここにも大きな河がありますね? 皆さんお分かりかと思いますが、ドナウ河です」


 考古学者として、今の俺の研究命題でもあるドナウ河。授業の最後はこれについて話そう。


「ドナウ河の流域には、今でも文明は起こっていなかったとされています。どれだけ現代の調査技術を駆使しても文明らしき痕跡は見つからなかったのです。しかしこの好条件の土地に何故人々が来ていないのか、私はずっと疑問でした。
 他にも河はありますが、ドナウ河周辺は今やアジア・ヨーロッパの境目にあたる土地の川として両方の文化がが栄える立派な土地です。環境的にはなんら申し分ないはず……。ならば後に栄えるヨーロッパにも、先んじて大きな文明が栄えたとしてもおかしくないんじゃないか。私はそう考えたのです」

 実はこのドナウ河に文明があった説は俺が大学生の頃に考古学や地質学ではなく、宗教学の恩師から教わったものなのだ。話を続けよう。

「さて、何故私がこのような疑問を抱いたのか、ですが……。ヨーロッパには昔『白い女神の宗教』と呼ばれる一つの大きな宗教がありました。その宗教観では、女性はヒトを生み出す神秘の母体として崇められていました。俗にそれをアマゾネス文化だと言う学者さんもいます。
 そこでは国の長は代々女性が受け継ぎ、完全な女性優位の社会が形成されたと考えられていて、事実その宗教は今のヨーロッパ全体とアジアの一部にまで勢力を広げて信者を得る巨大な物となっていました。勿論、その中にはドナウ河の流域も含まれています。
 しかし私はここで疑問に思ったのです。何故、文明は無いのに宗教は成立したのか」

 ……暑くなってきた。俺はジャケットを脱いでから赤く囲んだ丸の中を斜線で満たす。

「人が集まればそこに文明が成り立ちます。河が有れば生活が成り立ち、宗教は統治を成り立たせます。その3つの条件が揃うドナウ河に、文明が成り立たない訳がないのです」


 そこで一人の生徒が声を上げた。

「しかし先生、
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