第三十五話
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ブラギの塔が聖地と呼ばれる由縁は、そこにバルキリーの杖が安置されているからだ。
継承者に真実を示し、過ちを正す力は死者をも蘇らすと言われている。
具体的にそれを知る者は大陸の中でもごく限られた者であるが、100年以上前の大戦後の復興期に果たした教団の大きな功績を背景に権威が確立され、死ぬまでの間に一度はブラギの塔への参拝を行いたいと巡礼者が訪れることからいつしか杖のことを知らぬ一般の者にも広く聖地と呼ばれるようになった。
教団の最高権力者はグランベル六公爵家、エッダ家の当主がその地位を兼任しており、現在はクロード神父がその地位に就いている。
年単位で定期的に行われるエッダ家当主の聖地巡礼は大陸中の耳目を集める一代祭事で、その随員に選ばれることは名誉なことである。
そのような公的な行事にとらわれず、私的にエッダ家の当主が聖地へと巡礼することもあるがその時の随員の扱いは数段落ちることになるだろう。
とはいえ、公的な巡礼の時期は数年単位で綿密に計画された日程で行われるため、今回のように"ちょっと杖にお伺い立ててみましょうか"と気軽に出かける為に日程を合わせることなど考えもつかないことゆえ私的な訪問として行くより他あるまい。
クロード神父がいかに模範的で責任感に溢れた聖職者であり、公爵家の一員であろうとも"世界の危機"のような漠然としたものよりも、自分の家族という身の周りに関わった部分からなら信じてもらえる可能性のほうがありそうだとの狙いは当たった。
その後、日程を合わせるのに時間はかかってしまったがシルヴィアの左の二の腕の内側に見つかった小聖痕を確認してもらい、少なくともブラギの縁者であることは確定した。
「ミュアハは最初に会った日に言ってくれたんです。あたしがエッダの公女だって…今思い出したけど冗談だと思ってた、あたしの気を引きたいためのって…」
「…神よ、この奇跡に感謝いたします。そしてミュアハ王子、あなたを疑ったこと、信じ切れなかったこと、お許しいただきたい…いえ、それはあまりにも身勝手な願いでした」
「いえ…神父様、わたしがあなたと同じ立場ならば同じく信じきることなど出来なかったでしょう。ただ、これからは信じていただければ…信じ切れ無ければ杖に尋ねてくださっても結構ですし、そうしていただきたいです、一番最初に話したこの世界を覆う影の話については特に…」
そういう経緯があって俺はクロード神父の随員として、今、船の上にいる。
士官学校のほうは休学の願い出が必要かと思い、願い出てみたら聖地巡礼の随員として士官学校の候補生が選ばれる事例はそう少ない訳でもなく、他の科目の時間に充当されるそうだ。
巡礼により生じる権威に教団の関係者を選ぶのを避ける為にそういう人選もあるのだそうだ。
しかし、我儘
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