アインクラッド 前編
救われた出会い
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「この街でじっとしているのは、俺の性に合わない。それが主な理由だ。――まあ、コルが尽きたら飢え死にするっていうこともあるがな」
苦笑を浮かべて話す彼に、トウマはじっと見入っていた。そして、それと同時に一つの感情が心の奥底から湧き上がってくる。後ろ向きに寝そべっていた思考が徐々に身を起こし、前へ前へと傾いていく。
――彼の近くで、この世界を進む彼を見てみたい。彼がこれから起こす“何か”に、少しでも自分が関わってみたい――。
もちろん、マイナスの思考も存在した。自分が死ぬことへの恐怖、自分が元テスターであることがばれないかという不安、そんなことをしなくとも、外部の人間が助けの手を差し伸べてくれるのではという、根拠のない期待。
だが、それらがトウマの思考を再び後ろに引き戻すには、今のトウマの心はあまりにも前に傾きすぎていた。
トウマは一つの決意を心に秘めて、石畳にだらしなく広がった両足に力を込める。すると、あれほど自分の言うことを聞かなかった体が、驚くほどにすんなりと動いた。
そのまま立ち上がり、こちらを見ている彼と対峙する。
そしてトウマは、自分の未来を決める決定的な言葉を放った。
「俺をパーティーとして連れて行ってほしい。……俺の名前はトウマだ」
「……分かった。俺はマサキだ」
マサキと名乗ったプレイヤーの受諾に、トウマはこの世界に来てから一番の笑顔を見せた。すぐさまパーティーを申請する。それは、数秒も経たないうちに受諾された。
ゲートに向かうマサキの後を、トウマは少し早足で追いかける。今、彼の中では、先ほどの恐怖や不安と同じく何の根拠もない、それでいてベクトルは正反対を向いている希望や自信で満ち満ちていた。
「――ということなんだ」
トウマは十分ほどにもなる回想を終え、口を閉じた。マサキの手元にあるカプチーノも、立ち上る湯気がずいぶんと弱々しくなっている。
トウマはウインドウを呼び出すと、古ぼけた木椅子に背を預けたマサキの前に、自分が持つ全てのアイテムとコルを出現させた。途端に、マサキの顔が珍しく驚愕に染まる。
「これで、俺が持ってるアイテムとコルは全部だ。初心者の強化にでも使ってほしい」
「何故?」
「何故って……キバオウが言ってただろ? 「βテスターは罪を償うために、溜め込んだコルとアイテムを提供しろ」って……俺、自分が元テスターだって告白しなきゃいけなかったのに、何も言わずにマサキを騙してた。だから――」
「馬鹿馬鹿しいな」
マサキはトウマの言葉を遮り、吐き捨てた。四分の一程度になったカプチーノを呷り、カップを手に持ったまま、温められた息と共に続きを吐き出す。
「βテスターからアイテムや情報を搾取すればこの状況が改善されると、本気でそう思っている
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