ファントム・バレット編
ファストバレット
依頼人の品格
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家に帰ると、珍しく沙良が帰っていた。何でも2月頃まで防衛省の方に行くようだ。
「左遷?いやこの場合、出世か?」
「違います。何でも新しい指揮系統の試験運用らしいですよ」
「ふぅん?」
何にせよ沙良が居ると家の中が明るくなるし、蓮兄の機嫌も良くなる。何故とは言わないが。
当の蓮兄は「何、沙良が帰ってきた?宴じゃあ!!」と同じくハイテンションになった孫馬鹿祖父に拉致され、新しい土鍋を買いに行っている。何故に土鍋か……。
「おや、お帰り螢」
「……ただいま」
不健康そうに目の下の隈を隠そうとせず、ボサボサの髪のまま割烹着を着て台所から出てきた我が母に呆れながらも返事を返す。
俺の記憶が確かならばこの人はつい一年前まで家とは険悪だったはずだが、今ではすっかり馴染んでいる。
「アンタはアンタで珍しいな。この時間に帰ってるなんて……」
その言葉に雪螺はキョトンとすると、ため息を吐いて言った。
「螢、明日が何の日か覚えてないのか?」
「明日?12月8日だな。……ジョン・レノンが死んだ日?」
「そうだが、違う」
ちなみに、1980年の事だ。
「……太平洋戦争が始まった日か?」
「そうだけど!?何で私が早く帰って来なきゃならんのだ!?」
どうやら相当おかんむりらしい。むぅ……。この人の誕生日は過ぎたし、親父は本人が居なきゃしょうがないし、ましてやじいさんのなんて知らんぞ?無論、蓮兄も違う……。
「……いや、全く覚えが無いんだが?」
そう言うと、遂に雪螺ばかりか、沙良まで呆れた顔をする。
と、
「馬鹿もん」
――ゴォン!!
「ぐぉ!?」
脳天に何やら堅いもの落とされて思わずその場に踞る。
振り向いたその先にはもう一度手に持った土鍋を脳天に落とそうとしている祖父の姿があった。
「まあまあ、爺ちゃん。螢も6年も居なかったんだから忘れてるって。去年はドタバタしてて出来なかったし」
6年前っていうのは、俺が家出した時だが……。何かあったか?
「全く……。そんな事では先代に顔向け出来んわい……」
先代……俺を拾ってくれた人。……って、あ……。
「……あー、と……その……、思い出したかなぁ〜。あははは」
一同に呆れたたような顔をされ、居心地の悪くなった俺はそそくさと退散した。
向かった先は屋敷の最も東端にある離れ―――と言うか、プライベート神社だから『離宮』か。
歴代の水城家の人々を祀っている、名も無き神社だ。
俺をこの家の門の前で拾ってくれた先代もここに祀られている。
「俺、すっかり忘れてましたよ……」
苦笑しながら白い息と共に言葉を紡ぐ。
「貴方に拾われて、育てられて……まぁ、一応恋もして……
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