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東方調酒録
第三夜 十六夜咲夜は管を巻く
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わ!! ほら早くお酒をつぎなさいよ!!」
悠はビクビクしながらウォッカをついた。
「飲み過ぎですよ」
「私を気遣ってくれてるのね、 嬉しいわ! お礼に手品を見せてあげる」
「手品ですか?」
「うん! ほらこのリンゴを頭に乗せてっと」
咲夜は悠の頭にリンゴを置こうとした。悠は嫌な予感がした。
「ちょっと待ってください! これだとよく見れないですから……こうしましょう」
悠はカウンターの端まで行きスイカを置きその上にリンゴを置いた。
「これなら、僕もよく見える」
「ん!」
そう言って咲夜はナイフを取り出し、狙いを定めた。酔っているせいで手が揺れてる。ーー揺れが止まった!咲夜の目に力がこもり、ナイフがなげられた!!ナイフは一直線に飛びスイカを貫通してレンガの壁に刺さった。咲夜は爆笑している。悠は口が空いていた。
「面白くない?」
咲夜が低い声で聞いてきた。
「大変面白いですでございます!」
悠が慌てて答えた。
「何かカクテル作って……」
スイカに八つ当たりしてすこし落ち着いたのか、まだウォッカが残ってるのに要求してきた。
悠はカウンターからライ・ウィスキーを取り出した。
「ウィスキーは樽の中で熟成させます。だから職人達は上手くなるように祈るんだよ。熟成に長い時間が必要だ。もしかしたら自分では飲めないかもしれない、でも職人達は祈り続けたと思う。 その祈りがウィスキーの旨さにつながるんだ」
悠は説明した。
「フーン、想いは届くって言いたいのか?」
「その通りです」
悠はドライ・ベルモットとカンパリ・ビターをライ・ウィスキーに入れ、ステアした。
「オールド・パルです」
咲夜は出されたそれを一口飲んだ。
「ほろ苦いわね……今の私の気持ちってこと?」
「オールド・パルは禁酒時代より昔からある古典的なカクテルです、 名前の意味は『古い仲間』という意味なんだ。 禁酒時代にカクテルは欧州とアメリカスタイルが融合し現在のスタンダードな形になったといわれている。 それでもこのカクテルは名前の良さで一般的なカクテルになった。人は結局長く、密度の高い時間を一緒に過ごしたものが一番大事なんだよ」
悠は説明した。
「うっせー!慰めるな!! 私とお嬢様は『古い仲間』なんかよりずっと上等な関係なのよ!! 」
悠は予想外な反応にまたポカーンと口を開けていた。酔っている者には説教をしてはいけない、 黙って話しを聞くのが一番だ、という先輩の話を思い出している。
咲夜によって開けにくさが倍増したドアが開いた。入ってきたのはレミリアであった。目を合わせた咲夜は酔いが覚めたようでアワアワとしていた。
「咲夜! なかなか帰ってこないと思ったら……」
「お嬢様どうして? 霊夢のところに行ってたんじゃ?」
「行ってたわよ、これを編みにね」

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