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椿姫
第三幕その三
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に僕はついている」
 アルフレードはニヤリと笑ってこう言った。
「カードにはついているね」
「それは何より」
「もっとも恋にはついてはいないけれどね」
(まずいわね)
 フローラはそれを聞いて悪い予感がした。そしてヴィオレッタの方を見た。
「あの」
「何か」
 だが彼女は素知らぬ顔でフローラに顔を向けてきた。とりあえず動揺した顔は彼女には見せなかった。それを見てフローラもそれ以上言おうとはしなかった。
「いえ、何も」
「そうですか」
 アルフレードはその間にも勝ち続けていた。そしてシニカルに笑い続けていた。
「人間とは欲しいものは手に入らないものなんだね」
「お金は欲しくはないのかい?」
「最初は欲しかったさ」
 彼は言った。
「けれどもっと欲しいものがあったんだ」
「それは?」
「恋さ」
 ヴィオレッタの方をチラリと見て言う。
「不実な人の恋をね。不実な人にそんなものがあるのかどうかは疑問だけれど」
「浮気女にでも恋をしたのかい?」
 事情を知らない客の一人がこう尋ねてきた。
「その通りさ」
(私のこと)
 ヴィオレッタはそれを聞いてまた顔が青くなるのを感じていた。
(わざと言っているのね)
 その通りであった。アルフレードはなおも言う。
「そんなものに全てを捧げるのはね。馬鹿なことだと気付いたんだよ」
「それでここに来たのだね」
「そういうことさ。浮気女にはそれ相応の報いを与えてやる」
「それがいい」
 その事情を知らない客がまた言った。
「不実な女には思い知らせてやれ」
「そうするとしよう」
(何をする気だ」
 それを聞いたフローラと男爵は不吉なものを感じた。そしてヴィオレッタを気遣わざるにはいられなかった。
「男爵」
 フローラは男爵に声をかけてきた。
「わかっております」
 男爵はそれに頷いた。そして静かにカードのテーブルのところにやって来た。そして言った。
「あの」
「あっ、男爵」
「これはようこそ」
 客達は彼が参加するものと思い早速席を一つ作った。
「男爵もどうですか」
「確かお好きでしたよね」
「ええ」
 彼はあえてにこやかな笑みを作りながらそれに応じた。
「それでは御一緒させて頂いて宜しいですかな」
「どうぞ」
「共に楽しみましょう。ポーカーで宜しいですね」
「はい」
 彼は答えながらもその心はポーカーには向けられてはいなかった。アルフレードに向けていた。

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