暁 〜小説投稿サイト〜
くらいくらい電子の森に・・・
第十六章
[6/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
『どこに行くとか、言ってましたか!?』
「えと…」
伊佐木との会話を、頭の中で反芻してみた。緊張しすぎて、ディテールをよく覚えてないんだよな…交通事故のことを指摘されて、それで、緊張で頭が混乱して…えーと…
『まさか…隔離病棟に行くとか…!?』
八幡に言われて、伊佐木が僕に掛けた言葉を思い出した。
「あ…隔離病棟の場所を、聞かれた……」
『そんな!なんで黙ってたんですか!!』
…びっくりして携帯を取り落としそうになった。あの大人しそうな八幡が、こんな大声を出すなんて。
「ご、ごめん、その…つい忘れて…」
僕の言い訳なんて、耳に入ってなかったに違いない。携帯から聞こえてきたのは怒鳴り声ではなく、誰かが走る音と、何かにぶつかる音だった。やがて遠くのほうに、八幡の声が聞こえた。
『あの、すみません、受付の記録見せてください!』『な、なんですか急に』『知り合いが入ってるかもしれないんです、お願い!』
がさごそと紙を繰る音が響いた。やがて『ばりっ』と乱暴に紙を掴むような音が聞こえて、それに八幡の細い悲鳴が加わった。紺野さんが、僕から携帯を取り上げて大声で叫んだ。
「八幡、早まるな!!今そっちに行く、絶対にそこを動くな!!」
紺野さんの言葉が最後まで終わらないうちに、携帯はふつりと切れた。
「…いいの?」
「仕方ないだろう。あとは裁判で冤罪を晴らすさ。…あー、流迦ちゃんと柚木ちゃんはここで待ってな」
流迦ちゃんは初めてノーパソから顔を上げた。そして紺野さんの顔を無表情に覗き込んだ。
「紺野、行ってはだめ」
「大丈夫だから。安全が確認できたら受付に行け。伝えておくから」

<i504|11255>

「――紺野は、戻らない」
流迦ちゃんの顔が、初めて不安にゆがんだ。…古傷がちくりと痛むような、不思議な感覚が胸を満たした。
「何を言うんだ。死ぬわけじゃない、無罪を勝ち取ったらまた会える」
「いや、戻らない。…今、あの病棟に入ったら」
せわしなくキューブをまさぐる指が、ふいに止まった。

「確実に死ぬ。死ぬのは、八幡だけでいい」

「ばっ…お前っ…」
いつもの紺野さんなら、即座に流迦ちゃんを叱りつけて黙らせていただろう。でも、今回は違った。コトのやばさを、流迦ちゃんの表情が物語っていたから。
「烏崎が、あの『音源』のノーパソを持って歩いてるわ。病棟に入って行ったという看護士は、多分助からない。紺野も行けば、生き残った看護士に殺されるか…そいつを殺して発狂する。そして、姶良を食い殺す」
「僕か!?」
「ついていく気だったでしょ。なら、殺されるのは姶良」
「…そうだね、姶良だ」
柚木も同意した。そんな不吉な合意をされても困る。
「とにかく俺は行くぞ、まだ病棟には入ってないかもしれない」
踵を返して走り出そ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ