第十六章
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う言って紺野さんは、うつぶせになってタバコを咥えた。
「このまま何も起こらずに時が経てば、ただの愚痴っぽいサラリーマンでいられたかもしれない。運がよければ自分の欠点に気がついて、納得のいく人生を送れたかもな。…悪い奴じゃなかった。これがニュースになってみろ、周りの奴らはこう言うよ。『まさかあの人が、こんなことをするなんて…』」
慣れた手つきでタバコに火を灯し、長く細く煙を吐いた。もっと言いたいことがあるみたいだったけど、それきり口を閉ざした。柚木も、ただ天井のダクトを目で追っている。流迦ちゃんがキューブを回転させる音と、平坦なクラシックだけが、静まり返った空間を満たしていた。やがて、その音に『着信』を示す振動が加わった。
「誰の携帯?」
紺野さんが軽く手を上げて、上半身を起こした。そして携帯ストラップを掴んでポケットから引きずり出し、耳にあてた。にじり寄って耳をすませると、八幡のすすり泣きを含んだ声が聞こえた。
「八幡か。どうだ、首尾は」
『駄目です!私が余計なこと言ったせいで、何人かの看護士が隔離病棟に入って行ってしまって…』
「警察は、動かなかったのか!?」
『はい…その、ライブカメラで見てたなんて言えないから、「窓から隔離病棟で暴れている患者が見えた」としか伝えてないんです!そしたら…男性の看護士さんが4人くらい、何も武器を持たないで入っていって…あ、あの人たちに何かあったら、私のせいです!!』
「落ち着け!男が4人もいれば烏崎1人くらい何とかなる、お前は戻れ」
『で、でも…看護士さんたちが到着するまでに、患者さんやお見舞いの人がやられるかもしれないんですよ!私、もう少し説得します!』
「このお人よしが。好きにしろ」
見舞い客が…のくだりを聞いて、僕は猛烈に引っかかるものを感じていた。何かを伝え忘れているような。なんだっけ、見舞い客、見舞い客……あっ!!
「た、大変だ!ちょっと聞いて!」
「あぁもうお前まで何だよ」
「来てるんだよ、あいつが!あの…」
「なんだあいつって」
「あいつだよ、えーと…伊佐木!そう、伊佐木が来てるんだよ!さっき駐輪場の近くで声を掛けられたんだ」
「何っ!?」『何っ!?』
紺野さんと携帯の声がハモった。
「何で先に言わないんだ!」
「烏崎のインパクトが強すぎて…」
「…インパクトは敵わないな。まさか白石を食うとは…」
「食ってたの!?」
「なんだ、ろくに見ないでインパクトとか言ってたのか」
「僕はグロい系は嫌いなんだ」
『姶良さん!…ねぇ、姶良さんに替わってください!』
紺野さんから携帯を渡された。…何だか、これから携帯越しに怒られるような気がしてどきどきした。
「…はい」
『伊佐木さんを見かけたって、どこで!?』
「駐輪場の近くだよ。声が同じだったから、分かった」
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