第4話 黒岩さんはしゃべらない
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石がこの学校に編入してから、一度も黒岩が話しているところを見たことがなかった。
黒岩は、教室でもほとんど動かず表情もかえないことから、ほとんどの人が黒岩に話しかけることもない。
例外はクラスの委員長である樫倉であるが、樫倉に対しても一度も声を出したことを牧石が見たことは無い。
黒岩の表情から読み取ると、黒岩が樫倉を嫌っているようにも見えない。
一度、樫倉に「どうして、黒岩さんが保健委員になったのか」聞いたことがある。
「挙手で」
それが、樫倉の答えだった。
「牧石さんよ〜」
目黒が、再び牧石に声をかける。
「どうして、俺の話を無視するのだよ。
せっかく、この前親切に教えてやったのに」
「そうよ、私の話も聞きなさいよ!」
目黒の話に、樫倉が割り込んできた。
「牧石君、いつになったら約束を果たしてくれるのかな?」
「忙しいからね」
牧石は、肩をすくめながら、目黒に視線を移す。
「?
確かに俺は忙しいが、なぜ俺のことが話題に出るのだ?」
目黒は、牧石の視線に困惑の表情を見せる。
目黒は、事件解決の功労者として注目を集め、インタビューや撮影などで引っ張りだこである。
学校側も、目黒の活動を授業単位として評価しているため、授業を抜けるのは楽でいいと目黒は言っているが。
「正直に答えようか?」
「言わないで!」
牧石の言葉に、問いかけられた目黒ではなく、樫倉があわてて否定する。
樫倉が牧石と交わした約束は、牧石と目黒が一緒に遊ぶところに参加するということだった。
牧石は、勉強を教えてもらうことを条件に了解したのだが、目黒の忙しさが原因で約束が果たされていない。
牧石は、顔を赤くする樫倉に「約束は果たす」と目配せすると、再び考え事を続けた。
黒岩が話さないのは、授業中においても例外ではなかった。
数学の授業であれば、基本的にホワイトボードに答えを記載するので、言葉による回答の必要がない。
英語の授業では、教師が、黒岩の順番を飛ばしたため、なぜか黒岩に当てられることが無かった。
古典の授業の時、先生から指名されたが、席を立った黒岩が古典の教師に視線を移すと、教師はうなずいて自分で答えを述べると、次の授業から黒岩を指名することは無かった。
「それだけならいいのだが……」
牧石は思わず、声を出してしまった。
「それだけじゃ、無いのだよ牧石君」
目黒はため息をつきながら、話を続ける。
「見てくれ、この手紙の束を」
「それがどうした?」
牧石は、メールが当たり前なこのご時世に、紙の手紙を見るのは珍しいことであった。
「事件が解決してからというもの、毎日のように感謝の手紙が来ているのだよ。
人の好意を無にするわけにはいかないので、休憩時間や、帰宅してからも
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