第一幕その一
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。
「ガストーネ男爵まで」
ヴィオレッタは彼の名と爵位を口にした。
「一体どうされたのですか?」
「どうされたも何もありませんよ」
「全くですわ」
フローラもそれに頷いた。
「お身体に障りますぞ。あまり飲まれると」
「これのことですか」
ヴィオレッタはクリスタルの中にあるシャンパンを見て言った。そのシャンパンは水晶の中でシャンデリラの光を浴び色のついた光を放っていた。水晶もまたそのシャングリラの光を放ち七色に輝いていた。それ等の光がヴィオレッタの白い手を照らしていた。
「勿論ですよ」
ガストーネは答えた。
「あまり飲み過ぎると」
「本当にどうなっても知りませんよ」
「お気持ちはわかりますが」
ヴィオレッタはそれに応えた。
「病は気からとも申しましょう。私は今気を晴れやかなものにしたいのです」
「だから飲まれるのですか?」
「はい」
彼女は頷いた。
「享楽に身を任せる・・・・・・。それが私にとって何よりの薬なのです」
「左様ですか」
ガストーネもフローラもそれを聞いて哀しい顔になった。ヴィオレッタはその間にそのシャンパンを口に入れた。
「はい。人生は短いもの。特に私にとっては」
ヴィオレッタは苦しそうな顔でそう述べた。
「ならば楽しまなくては。違うでしょうか」
「それもまた人生ですが」
だがガストーネはそれに賛同したくはなかった。
「別の生き方もありますよ」
そしてこう言った。ヴィオレッタにはその生き方を選んで欲しかったのである。
「別の生き方ですか」
それを聞いて自嘲めいた笑みを浮かべた。力のない笑みであった。
「私に。娼婦の私に他にどのような生き方があると」
「ありますよ」
フローラは言った。
「きっと。見つけたいと思いませんか」
「生憎」
首を静かに横に振った。
「このパリで。華やかに生きていたいです」
「そうですか」
「なら仕方がありませんな。私達が言えるのはここまでです」
「男爵」
「マダム、いいですから」
眉を顰めさせて問おうとするフローラにそう言った。そしてまた言った。
「それは置いておきまして」
「はい」
彼は話題を変えにかかった。
「実は私に友人が一人おりまして」
「お友達ですか」
「ええ。貴女に御会いしたいと言っているのですが宜しいでしょうか」
「構いませんよ」
ヴィオレッタはにこやかに笑ってそう答えた。
「どなたでも。私なぞに御会いしたいという方はどなたでも歓迎させて頂きます」
「わかりました。それでは」
「どなたなのですか?」
ヴィオレッタはそれは問うた。
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