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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十四話 千客万来・桜契社(上)
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家がこれからの苦労を語る。
「水軍はいかがですか?」
 馬堂中佐に促され、笹嶋も口を開いた。
「我々は北領で戦闘を行わなかったがそれでも消費弾薬の増加傾向が著しいのは確かだ。
だが問題はそれだけではない」
「艦の新造かね?熱水機関を積んだ船が活躍したと聞いたが。」
駒州公が興味深そうに聞いた。
「えぇ、これからは艦艇の熱水機関化、それに伴う黒石の買い付けに保管。
兵站の面倒は陸軍に負けませんな。それに今の所、艦艇用熱水機関だけでも既存の巡洋艦に匹敵する値段でして、予算の問題もまた然り、です。」
 自然と乾いた笑いが出てくる。外からの刺激は今、この国の心臓部も揺るがしている。
「それにしても、あれだな」
 それを理解しているであろう保胤中将が心配そうな顔つきで自身の義弟に話しかけた。
「お前も戦争だけではなく戦後まで憂うか」
 義兄の暗い声に醒めた口調で義弟が答えた。
「自分のような立場の軍人は関わるべきではない、とも心得てはいますが自分の関わらない事にこそ、考えてしまうものです。その手の事で一席ぶつ奴も居ますから」
 そう言って軽く笑う。
「将校であるならば一席ぶてる程度は当然だ。前線の空気を知らないのも論外だが、政治を理解できない将校も同じ程度に性質が悪いと思うがね。我々は軍事指揮官であると同時に行政官でもあるのだから」
 豊久の言葉が無自覚に旧友の何かを刺激したのか一瞬だけ新城は皮肉な笑みを浮かべた。
「堂賀さんに気に入られるわけだな。いや、彼に教えられたのかな?」
いかにも若手情報将校らしい口ぶりに保胤が面白そうに笑った。
「なるほど、馬堂の者だな。豊長も若いころは鼻息を荒くして軍の未来を語っておったわ。
今も鼻息こそおさまったが大して中身はかわってないがな」
 笑いながら篤胤は髭を軽くなでると豊久に視線を向けて云った。
「――ならばいっそのこと聯隊の面倒を見る仕事をおえたら保胤のところでなく儂のところで面倒をみてやろうか?」
つまるところ皇都で篤胤の補佐役として動いてみないか、ということである。
「父上、それは困ります。私の方もなかなか厳しい状況ですからね。貴重な実戦を知ってる若手は宝石よりも貴重なんですよ」
 主君の親子の間で視線を迷わせている豊久に苦笑を浮かべた保胤が抗議の声を上げた。
「わかった わかった。まあこの話はまた状況が変わったらの話だな。そろそろ新たな客人達も到着する頃合いだ。拝謁の用意をしようではないか」
 篤胤の言葉と同時に大会堂の扉が開いた。

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