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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十四話 千客万来・桜契社(上)
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ほど酔狂な連中しか寄ってこないのですよ。実際、これまで匪賊討伐や辺境での反乱鎮圧で結構な功績を上げていますし、もう少し上官達と上手くやっていれば良かったのですがね。そうであったら北領に赴任する前に大尉か上手くすれば少佐になっていてもおかしくありません」
 わざとらしく笹嶋にヒソヒソと囁く。
「聞こえているぞ、酔狂者の筆頭格め。」
 口元を歪めた駒城家の末弟が軽く笑いながら口を挟んだ。
「酷いですね、御育預殿。私はこれでも陪臣格の間では良識派で通っているのですよ?」
「恐妻派見習いの間違いだろ?
相変わらず婚約者から逃げ回っているそうだが?」
 哀れ、良識派は苦笑を浮かべて沈黙してしまった。

「笹嶋君、君の噂は直衛から聞かされていた。
今の配置は統帥部参謀だったね?
水軍は陸軍よりも信賞必罰についてきちんとしている。」
保胤中将がそれを笑って眺め、言った

「第十一大隊が築いた軍功のお零れと言ったところです。
まぁ、自分は貰えるものは貰っておけ、と云う性分ですので有難く頂戴いたしましたが。
えぇ、それに有望な人脈も得られる事は統帥部参謀としても有り難い事でして。」
少々露悪的な口調で言うと公爵大将が面白そうに体を揺らした。
「成程な、直衛達が気にいるだけの事はある。」
 ――どうやら駒州公からみたら私も酔狂者らしい。
「それにしても、新城少佐が近衛に配属されたのは驚きました。殿下は衆兵隊の改革に熱心だったそうですが、これもその一環でしょうか」
 笹嶋の言葉に隣に座っている馬堂中佐が僅かに身じろぎした。
大店の若番頭が客に向けている様な顔つきは変わらないが、保胤中将に向けている目つきだけが鋭くなっていることに笹嶋も気づいていた。
 主家の若殿もそれを微笑で受け止めながら笹島へ言葉を投げかけた。
「えぇ、実仁親王殿下が強い御希望なさってね。
北領でいよいよ必要だとお考えになったのだろう。君も確か――」
「えぇ、最後まで北美名津にいらっしゃいましたので幾度か拝謁の栄を。」
 保胤は笹嶋に軽く頷くと二人の陸軍佐官に視線を向けた。
「直衛、馬堂中佐」
「はい」
「はっ」
 ――誰だ、お前ら。
そんな阿呆な言葉が笹嶋の脳裏をよぎるほどに らしくない返事を二人がした。
――駒州の若頭領の声望はけして過大ではないようだ。
 笹嶋の感心を余所に保胤中将は刻時計に目をやりながら話題を続けた。
「暫くしたら実仁親王殿下がおいでになる」
「――」
ぴくり、と笹嶋の横で馬堂中佐の方がはねた。
「お忍びで近衛少将としてお見えになる。将校としての礼のみで十分だと仰っていた。
殿下は――いや、実仁少将は新しく幕営に加わった将校と親しく言葉を交わす事をお望みだ」

「それは光栄な事です」
 新城の答えはその
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